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    • 日本の近海は世界の中でも特に多様性が高く、魚類だけでも4千種を越えることが知られています。そして、そのうち市場に出回る魚は数百種類にものぼると言われています。魚類だけにとどまらず、アサリやサザエなどの貝類、イセエビやズワイガニなどの甲殻類、コンブやワカメなどの藻類など、海洋に生息する幅広い分類群に属する多様な生き物によって、日本の食生活と食文化が支えられています。これは農業や畜産業には見られない、水産業の大きな特徴です。

      この多様で豊かな水産資源を将来にわたって持続的に利用していくためには、その資源量を適切に管理し、枯渇させないことが大切です。海洋生物は、単独で生活しているわけではなく生態系の一員なので、その資源管理には資源となっている生物の量や分布、齢、サイズ構成といった資源情報のみならず、それをとりまく環境や生き物に関する情報も欠かせません。しかしながら、私たち陸上に住む人間にとって、水中のどこにどのような生物がどれくらい生息しているのかを知ることはたいへん難しいのです。現在の水産物調査では、網を用いて対象生物を捕獲し、得られた量と曳網速度や網口の大きさから自然界に存在する生物量(濃度)を推定する、という手法がよく用いられています。ごく沿岸域の海洋生物を調べる際には、水中に潜って目視観察し、対象生物の数を数えたりすることもあります。一方、漁師が魚を釣ったり網を曳いたりする時は、事前に魚群探知機を用いて獲りたい魚がいることを確かめます。しかしこれらの手法を用いた調査には、多大な時間とエネルギーがかかるうえ、分類のための専門的な知識や、捕獲するための特殊な装置と技術が必要です。そのため、調査の機会やそこから得られるデータには自ずと限りが生じます。また、調査員や調査器具、調査手法などによって結果にばらつきがみられることがあり、推定される資源量はしばしばその定量性が問題となります。これらの問題点を克服する新たな調査手法として近年注目されているのが、環境DNA分析です。