章节大纲

    •  VMPSによる採集作業は①前準備、②投入作業、③曳網、④揚収作業、⑤試料の回収の順に進めていきます。ここでは、それぞれの作業内容について順を追って説明していきます。


    • ①前準備

       観測地点に到着する前に、水中局にネットやブライドルワイヤ、力綱、重錘を接続しておきます。また、水中局と船上局とをアーマードケーブルで接続した後、可能であれば船上での作動テストを行います。作動テストでは開閉装置や水中センサ類が正常に作動することを確認します。開閉バーをトリガの掛け金にセットしたら投入準備完了です。


    • ②投入作業

       観測地点に到着して停船したら、クレーンで水中局を海面上に吊り上げます。その後、アーマードケーブルを繰り出して水中局を海中に投入します。船内では変換器の電源を投入した後、PC上の専用ソフトウエアで水中局から送られてくるデータの表示・収録を開始します。


    • ③曳網

       アーマードケーブルを繰り出し水中局を真下(鉛直方向)に目的水深まで沈めていきます。このとき、水中局の計測した各種データはPCでリアルタイムにモニタすることができます。VMPSの観測画面を図9に示します。この例では、赤いラインで水温の鉛直分布、青いラインでろ水計の回転数(最深部で0にリセットされている)、青いライン上の緑のマークでネットの開閉状態が表示されています。

      9  VMPS 観測画面

      画像提供: 山口 篤 博士(北海道大学水産科学研究院)


    • 10 VMPSの曳網例

       水中局を降下させている間は船上局のモニタで深度センサの計測値を監視し続けます。水中局が目的の深度に到達したら直ちにケーブルを巻き上げ、曳網を開始します。プランクトンの採集効率はネットを移動させる速度によって変わるので、曳網中に採集効率がばらつくことのないよう一定の速度でケーブルを巻き上げます。曳網中の任意のタイミングで船上局から開閉信号を送り、ネットを開閉します。通常は予め採集範囲(深度)を決めておき、水中局がその深度を通過するときにネットを開閉します。水温や塩分などの値を監視しながら、それらに基づいて採集範囲を決定することもあります。また、水中局が海中にある時、船と水中局の位置が離れてしまわないよう潮流や風の影響を考慮しながら操船しなければなりません。

       

      *曳網の一例

       VMPSの曳網例を図10に示します。この例では、水中局を1,000メートルまで降下させた後、上昇(曳網)中の750500250メートルの三つの深度でネットを開閉しています。そのようにすることによって、4つの異なる範囲(0~250 250~500500~750750~1,000メートル)に生息するプランクトン群集を一度の曳網で別々に採集することができます。

      VMPS 曳網例

      10 VMPSの曳網例


    • ④揚収作業

       水中局を空中まで引き上げたら、データの収録を終了して変換器の電源を切ります。海中から回収された水中局がクレーンで吊り下げられている間にネットの外側からホースで海水を流しかけ、ネットに引っかかっている、あるいは網の目に詰まっている試料を網の最下部(コッドエンド)に流しこみます。この作業を「網洗い」といい、試料採取の定量性を高めるだけではなく、次回曳網時の試料への混入あるいは網の目詰まりによる採集効率の低下を防ぎます。網洗いを終えたら、クレーンで水中局を船に引き込んで甲板上に着地させます。


    • ⑤試料の回収

       採集された試料をコッドエンドから取り出します。コッドエンドには塩ビ管が取り付けられており、その下端に固定されたナイロンメッシュで作られた袋あるいは塩ビ製のバケットに試料が集まります。袋型のコッドエンドは細いロープで塩ビ管に縛り付けられていて、ロープをほどけば袋を取り外すことができます(図11-a)。バケット型のコッドエンドはネジで塩ビ管に締め付けられており、反時計回りに回すことで取り外すことができます(図11-b)。甲板上にこぼしてしまわないよう注意しながらコッドエンドの内容物を試料瓶に移し替えます。

      VMPS Cod End

      11 VMPSのコッドエンド

      a) 袋型 b)バケット型