セクションアウトライン

    •  柱状採泥器は円柱型の筒を海底に突き刺して堆積物試料を採取する観測機器の総称です。この採泥器は堆積層の層序を乱さずに試料を採取することが出来るので採取した試料を年代ごとに区分けて分析・解析が行われます。代表的な柱状採泥器としてピストンコアラー、マルチプルコアラー、アシュラ採泥器、フレーガーコアラ―、不攪乱採泥器があります。

    • ピストンコアラー

       ピストンコアラ―は重力自由落下式の採泥器で、メインウェイトの下に接続した金属製の筒を海底に突き刺して海底下数mから最大20メートル程度の堆積物を円柱状に採取します。このタイプの採泥器の中では最も深くまで採泥することができ、採取された試料を用いて数百年から数十万年前の地球環境を推定できます。

       ピストンコアラーの観測作業手順は次のようになります。まず、天秤式のトリガーにピストンコアラ―本体を接続し、海底付近までウインチを使って降下させます。海底にパイロットウェイトが接触するとトリガーが作働して採泥器が自由落下し、その勢いと自重により海底に貫入します。貫入時に筒中をピストンが上昇することで陰圧が生じ、スムーズに深くまで採泥器を貫入させるのがピストンコアラ―の特徴です。さらにその陰圧がパイプ下部からの試料の流失を防ぎます(図2)。

       一方、採泥器を海底に突き刺す時に堆積物表層の試料を攪乱してしまうので、パイロットウェイトに小型のコアラーを使用して堆積物表層を別に採取する方法があります。

      ピストンコアラー

                       図2 ピストンコアラーとピストンコアラー概略図 

      採泥器詳細コースへのリンク→「ピストンコアラー
    • マルチプルコアラー

       マルチプルコアラーは図3に示すように金属パイプで組上げられたやぐらとその中を昇降する錘、そこに取り付けたポリカーボネート製の筒で構成されます。やぐらが海底に着底すると錘が降下して筒が静かに堆積物に貫入し、海底表層30㎝程度までの堆積物を海底直上水とともに採取できます。複数本の筒を取り付けられることからマルチプルコアラーと呼ばれています。

       この採泥器で採取される試料は筒の中で堆積物が攪拌されることが少ないので海底の環境をそのまま船上に持ってきたことになります。そのため海底直上水と堆積物間の物質交換による相互作用や堆積物表層に特異的に生息する微生物の動態などの研究に幅広く活用されています。


      マルチプルコアラー

                    図3 マルチプルコアラー

       採泥器詳細コースへのリンク→「マルチプルコアラー


    • アシュラ採泥器

       錘に3本のポリカーボネート製の筒を装着した小型柱状採泥器です。マルチプルコアラーのようなやぐらはありませんが、ゆっくりと海底に貫入させることが出来ればマルチプルコアラーと同様の試料を採取することができます。また、海底からの引き抜き時に上下の蓋が閉じて堆積物試料を落下させない機構はマルチプルコアラーと同じ方式です。

       この採泥器をピストンコアラー観測のパイロットウェイトとして装着することでピストンコアラーでは攪乱されてしまう堆積物表層を一連の観測作業で同時に採取できます。


             

       

            

             図4 アシュラ採泥器

      画像提供:地方独立行政法人 北海道道立総合研究機構


    • フレーガーコアラー

       金属製の筒の上部に錘が備えられたロケットのような形をした重力自由落下式の柱状採泥器です。海中を自由落下させる勢いと自重により海底に貫入し、海底表層数十㎝の堆積物を採取できます。筒の中には塩化ビニルやアクリル製のチューブ(インナーチューブ)を挿入し、チューブの中に採取された堆積物が保持されます。また、筒の下部には金属製の逆止弁、筒の上部には採泥器を海中で持ち上げる時に閉鎖する蓋が備わっていて、採取された堆積物の落下を防ぎます。

       この採泥器は比較的小型で人の力で持ち運びが可能なため、ウインチやクレーンなどの設備を必要とせず人力でも観測作業ができます。そのため、主に東京湾や瀬戸内海のような内湾や沿岸域の調査に適してます。また、アシュラ採泥器と同様にピストンコアラーのパイロットコアラーとして使用できます。


        図5 フレーガーコアラー

        画像提供:株式会社 離合社

       


    • 不攪乱柱状

       不攪乱柱状採泥器は錘に接続したアクリル製の筒の先に金属製のビットを取り付けた採泥器です。この採泥器は海底に到着すると錘上部に備わったトリガーが作動し、自重を利用してゆっくりと海底に貫入します。そして、回収時にワイヤあるいはロープが引き上げられるとビット部分が90度回転して蓋となり試料の脱落を防ぎます。この機構から内湾や湖沼の堆積物が柔らかい場所での使用が主流です。また、機器の本体重量は人の力で持ち上がる程度なため、小型船舶による調査に適しています。


         図6 不攪乱柱状採泥器

       画像提供:株式会社 離合社