Section outline

    •  海洋と大気を中心としたヨウ素循環のイメージを下の絵に示します。地球表層で動的なヨウ素の大部分は、海水中に無機ヨウ素として存在しています。海水は酸素が豊富にある(酸化的な)ので、無機ヨウ素はヨウ素酸イオン(IO3-)として安定に存在します。海洋植物の力により、ヨウ素酸イオンがヨウ化物イオン(I-)に還元され、生物に取り込まれやすくなります。生物体内では、有機ヨウ素化合物として、酵素反応に役立てられたり、殺菌作用に役立てています。生物に利用される有機ヨウ素のうち、ごく一部は、低分子で揮発性を有します。(揮発性を有する=ガス) つまり、有機ヨウ素ガスになっています。その有機ヨウ素ガスを含む海水が大気と接していれば、大気中に有機ヨウ素ガスが放出されるのです。なお、有機ヨウ素ガスとして放出される以外に、ヨウ素分子(I2)として放出される分もあると考えられています。大気中に有機ヨウ素やヨウ素分子が放出されると、それらは、速やかに光分解して大気中にヨウ素原子を放出します。このヨウ素原子が対流圏大気中のオゾンを触媒的に壊す役割を果たすのです。ヨウ素原子は、オゾンを壊しつつ、いずれ雨として地表面に沈着し、海に戻ります。ごく一部は、海に戻らず、地殻に固定されるものもあります。また、海洋植物が海底に堆積して、そのまま地中に埋没する分もあります。

       これが、海洋を中心とした、(比較的短時間での)地球表層のヨウ素循環の概要です。下の絵では、海洋堆積物と海水の境界、海洋たと大気の境界で有機ヨウ素(org-I)が移動している絵を描きました。ヨウ素の運び屋として重要視されているのが、有機ヨウ素や有機ヨウ素ガスと考えられています。その有機ヨウ素を生み出しているのが、海洋植物です。つまり、海洋植物が、地球のヨウ素循環を駆動していると考えられます。その詳細は次のコースで説明します。




    • 海洋から大気へ放出されたヨウ素が大気化学に影響を与えます


      以下の研究をご覧ください。


      JAMSTEC プレスリリースより引用:https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20220331/)

      熱帯西部太平洋で大気中のヨウ素濃度が極めて高い海域“ヨウ素の泉”を発見―気候変動予測評価に向けた新たな知見―

      (Full latitudinal marine atmospheric measurements of iodine monoxide)

      高島ら, Atmospheric Chemistry and Physics, 2022, doi.org/10.5194/acp-22-4005-2022

      発表のポイント

      海洋地球研究船「みらい」による広域観測の結果、熱帯西部太平洋で大気中のヨウ素(一酸化ヨウ素)濃度が極めて高い海域を発見した。

      この海域において、大気中の一酸化ヨウ素濃度と温室効果ガスである大気中のオゾン濃度が負の相関関係にあることが明らかとなった。

      大気中のヨウ素は、海洋から放出されていると考えられており、これまでの研究では、大気中のオゾン濃度が高いほど、海から大気に供給されるヨウ素は多いとされてきたが、今後はそのプロセスを再考察する必要がある。

      ヨウ素の供給とオゾン消失効果が気候変動に与える影響は、これまで考えられていたよりも大きいことが推測された。これらの物質の影響はIPCC第6次評価報告書では考慮されておらず、第7次評価報告書に向けてその影響評価の向上に取り組む予定