セクションアウトライン

    •  元素記号の通り、水素の同位体です。三重水素ともいいます。陽子1個に中性子2個存在するのがトリチウムです。その他の水素同位体は重水素(デューテリウム)があり、これは陽子1個に中性子1個で、放射線は出しません。また、一般的な水素は1Hで、軽水素とも言います。トリチウムだけがベータ線を出して、安定なヘリウム3Heになります。


       トリチウムの生成過程を下の絵に示しました。
       福島原発事故の処理水に含まれることで注目されているので、人工的に生成されるイメージがあるかと思います。しかし、トリチウム生成のほとんどはこの青いボックスにあるように、大気中に存在する窒素や酸素に第二次宇宙線(中性子)が当たって、核破砕反応によって生成されるのです。また、中性子が地表までいくと、地殻のリチウムやウランにあたって、天然の核反応によってもトリチウムが生成されます。




       なお、原子力発電所で生成される場合のほとんどは、核分裂等に用いる中性子の速度を減速させたりするために、ホウ素を用いるのですが、そのホウ素と中性子が核反応を起こして生成されます(上絵の下蘭)。




    •  それでは、現在の地球に存在するトリチウムの起源割合を理解するために、トリチウム放出の歴史をまとめました(下の絵)。左側のボックスは人工由来(橙色)、天然由来(青色)を示しています。右側の灰色の棒はトリチウムの量を示しています。棒の上のほうが存在量が高くなります。



      山西敏彦, 平成25年, 「トリチウムの物性等について」(独)日本原子力研究開発機構 よりデータを引用して図にしました。トリチウムについて詳しく記されているので、こちらも参照してみてください。


       上の絵をみても、これまでの歴史で最もトリチウムを放出したのは核実験によるものであることがわかります(左側一番上)。およそ185,000~240,000PBq(×1015Bq)というとてつもない量です。

       核実験後に環境中の存在している量(2010年)は20,000PBqです。核実験前(自然由来のみ)は1,000PBq(その下の平衡の場合の存在量)なので、核実験によるトリチウム放出により環境中のトリチウム量が20倍にも増えたのです。そして、現在でも核実験の影響が残存していることを意味します。

       上の絵で、青色のボックスが天然由来の年間のトリチウム生成量を示しています。自然由来による年間のトリチウム生成量が70 PBqとなります。ちなみに福島第一原発事故によって環境中に放出された量は0.1~0.5PBqとされています。現在、福島原発の施設内に2.6 PBq存在するといわれています。福島第一原発事故で放出されたトリチウム量よりも、年間地球上で作られる量のほうが30倍ほど多いことになります。



    • 日本沿岸の海水中のトリチウム濃度

       では、日本の沿岸海水にはどれほどの濃度でトリチウムが存在しているのでしょうか? 下の図(右)は青森県から岩手県(日本地図で紺色で示した場所)にかけての沿岸海水中のトリチウム濃度の変遷を示しています。

       平成3年ころは0.2~0.4 Bq/Lの濃度でしたが、トリチウムの半減期(約12年)と表層から下層への移行による拡散によって、徐々に減少し、平成30年には0.1 Bq/L程度になっています。また、水色の棒の部分は六ヶ所御村にある再処理施設が稼働した際に検出されたトリチウムです。その後再処理施設は一時停止しております。なお、令和2年の夏に稼働が認可されました。

       平成29年と30年のオレンジ色の部分(下右図)は日本全国(北海道から九州)の原発周辺の海水中のトリチウムの値を示しています。海域による差はほとんど見られず、日本全国で均一となっています。



      平成 31 年 公益財団法人 海洋生物環境研究所・平成 30 年度原子力施設等防災対策等委託費 (海洋環境における放射能調査及び総合評価)事業調査報告書 より引用しました。

      公益財団法人海洋生物環境研究所のホームページへのリンク