ミズクラゲの筋肉
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クラゲの傘の拍動は、傘の裏側の上皮に存在する筋肉の収縮と弛緩によるものです。ミズクラゲの傘の裏側には同心円状に走る横紋筋の線維があって、それが収縮すると傘はすぼまった形になり、弛緩すると、傘の上方の分厚いメソグリアの弾力によって元の開いた形へ復元します。これを繰り返すことで水中を泳ぐことができます。ミズクラゲの場合、エフィラ幼生の時期には、同心円状の環状筋に加え放射状に走る放射筋を持っていますが、放射筋は成長と共に退化します。一方、キタユウレイクラゲなどでは成熟しても放射筋が残存します。拍動の周期は、成長につれて長くなり(ゆっくりになる)、水温によっても変化します。個体差もあって、傘を盛んに拍動させる個体は、拍動のたびに傘の縁の触手が良くたなびいて、たくさんの餌を集めて食べるので良く成長します。
筋繊維は1本ずつ筋細胞に収められています。筋繊維はアクチンフィラメントとミオシンフィラメントを含んでいて、ミオシンフィラメントの主成分であるタンパク質のミオシンは、ATPを分解しながらアクチンフィラメントに結合してたぐり寄せ、アクチンフィラメントとミオシンフィラメントが互いに滑り合うことで筋繊維は収縮します。ミズクラゲの横紋筋には、左右相称動物の横紋筋に似た横紋構造が観察されますが、幾つか異なる特徴もあります。一つは横紋の繰り返し単位であるサルコメアの長さが多くの左右相称動物(2.5マイクロメートル)に比べて短い(1.5マイクロメートル)という点です。同じ長さの筋繊維を短いサルコメアがたくさん連なって構成する場合と、長いサルコメアが小数連なって構成する場合を仮定すると、アクチンフィラメントとミオシンフィラメントが同じ速度で滑り合っても、短いサルコメアの筋繊維の方が全体の短縮速度は大きくなります。すなわち、ミズクラゲの横紋筋はアクチンフィラメントとミオシンフィラメントが滑り合う速度が小さくても、筋肉全体は素早く収縮できる仕組みになっていると考えられます。もう一つの特徴は、Z線の形態で、左右相称動物では電子顕微鏡観察した場合、とても濃く見えますが、クラゲの場合、不連続で脆弱な印象を与えます。

一方、触手や口腕には平滑筋があります。口腕は二つ折りになっていて、内側を食物、排泄物、卵、精子、間違えて捕らえた食べられないもの等が移動します。それぞれが通るルートは異なっていて、精子は二つ折りの溝の一番奥を通って精巣から口腕の先端まで送られ海に放出されますが、卵は口に近い部分で溝から出て行きます。これらの移動は内側の上皮にある繊毛の運動によるものです。内側の上皮と外側の上皮は細胞の形態がかなり異なっていて、平滑筋の線維は外側の上皮細胞の中にあります。これは上皮細胞と筋細胞が別々になっている横紋筋とは大きく異なる点です。平滑筋の線維は口腕全体の中で網目状につながって見えますが、実際には個々の上皮細胞に分割されて存在しています。
