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    •  堆積物表面付近で無酸素状態になっていれば、酸化還元電位は0 (V)近くまで下がります。すると、堆積物表面に沈殿していた水酸化鉄(Fe(OH)3)の溶解が急に進んで、Fe2+濃度は数十µmol/L の溶解平衡になります。これは、直上の海水中の溶存鉄濃度の千倍にも達します。さらに、堆積物の深い方では、-0.1 (V)まで低下すると硫酸還元菌の作用で硫化水素が発生します。


    •  硫化水素イオンが発生したところに、先に溶出したFe2+が存在すると、両者が反応して硫化鉄FeSの黒色沈殿が生じます。FeS(いずれFeS2になる)はなかなか溶解しないので、海底下深くまで埋没してしまい、数千万年後にはパイライト(FeS2)の鉄鉱床を作るでしょう。したがって、硫酸還元まで進んだ堆積層では、間隙水に溶存するFe2+イオンの濃度は著しく低くなります。堆積物中の比較的深いところで発生するHSイオンのうち、Fe2+との反応を免れたものは、分子拡散により、堆積物の上の方へ運ばれます。酸素と出会うとHSイオンは酸化されてしまうから、HSイオンの影響が及ぶのは、酸化還元電位がゼロ付近(無酸素層)までです。海底堆積物の直上水が、何らかの理由で貧酸素化していれば、堆積物表面付近までHSイオンの影響が及ぶこともあります。もちろん、海洋の底層水が無酸素状態に陥り、海水の酸化還元電位が-0.1 (V)を下回れば、海水中でも硫酸還元が起こってHSイオンが発生します。閉鎖系の内湾で底層水が停滞すると、このようなことが起こり得るのです。