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    • キメラとは、複数の受精卵から生じた細胞が一つの個体を形成している生物と定義されています。すなわち、ひとつの受精卵の細胞を別の受精卵へ移植した、上に示したような胚盤を別の胞胚に移植した個体はキメラと呼べます。キメラのうち、体細胞系列の細胞が複数の受精卵に由来する細胞から構成されている個体を「体細胞キメラ」、生殖細胞系列の細胞が複数の受精卵に由来する細胞から構成されている個体を「生殖系列キメラ」と呼びます。

    • 生殖系列キメラ

      魚類の胞胚の細胞は分化多能性を持つので、他の胚から細胞を移植するとキメラを誘導できます。この時、生殖系列の細胞が移植されると、体細胞キメラであると同時に生殖系列キメラにもなります。図10に示すように、キンギョの胚盤にフナの胚盤を移植するとキンギョとフナの両方の細胞を持ったキメラができます。このキメラは、キンギョとフナの両方の卵を産みます。すなわち、一個体で2種類の卵を産む魚を作ることができるのです。

      また、生殖系列細胞の分化のところで示したように、人工mRNAを受精卵へ顕微注入するとPGCsを光らせることができます。この生殖細胞のみを取り出して他の胚に移植すれば、図11のように生殖系列キメラを誘導できます。

      さらに、宿主のPGCsを作らせなくしてドナーから一つのPGCを移植すると、たった一個のPGCからでも生殖腺は形成されてきます(図12)。


    • 10. キンギョの胚にフナの胚を移植すると、赤い色素と黒い色素を持った「キメラ個体」ができます。この個体は、キンギョの卵とフナの卵を両方産みます。ですから体細胞キメラであると同時に生殖系列キメラでもあります。


    • 11.蛍光で光らせた生殖細胞のみを移植した生殖系列キメラ個体です。蛍光を持った生殖細胞は、移植された個体の中で自律的に生殖腺へと移動します。


    • 12.左から無処理の対照個体(Wild)、PGCを作らせなくした対照個体(MO.cont)、PGCを作らせなくした個体に別の個体から一つのPGCを移植した個体(SPT-chimera)、のそれぞれの生殖腺。Wildでは一対の発達した生殖腺が認められるが、MO.contでは認められない。さらにSPT-chimeraでは一方の生殖腺のみが発達している。