現在、農業では様々な品種が作られ利用されてきています。これを品種改良と呼びます。これは、植物の個々の細胞が様々な細胞に分化できる「分化多能性」をもつことと関係があります。品種改良の方法として、遺伝子の改変(遺伝子導入やゲノム編集)、染色体構成の改変、核細胞雑種の利用、そしてキメラ個体の誘導などがあります。これらの方法は総合して「発生工学」と呼ばれています。発生工学の手法で改良された植物細胞は、培養により個体へと変換され、品種として利用できるのです。一方、動物はどうでしょうか。動物の細胞一つを培養して個体を作り出すことは、現状ではできません。どうしても配偶子(卵/精子)を作成し、受精という過程を経る必要があります。これでは、有用な遺伝子を持つ個体がいても、その配偶子を経なければその遺伝子を利用できないことになってしまいます。もちろん、核移植という方法を用いて個体を作り出せますが、成功率は非常に低いのです。ところが、卵や精子に分化する生殖系列の細胞(ドナー)を、別の個体(ホスト)に移植した「生殖系列キメラ」を作り出すと、ドナーの配偶子を作り出せることがわかってきました。この「生殖系列キメラ」という方法を用いて、魚類の品種改良ができる可能性があります。北海道大学の七飯淡水実験所では、様々な魚類を材料として用いた発生工学の研究に取り組んでいます。