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    • 予備知識:信号強度の検出の原理-イオンクロマトグラフィー

       イオン交換樹脂を充填したカラムに雨水試料を通す。雨水中のイオン成分の種類によってカラムを通過する時間が異なる。複数種類のイオン成分を含んだ試料水をカラムに通してやると、カラムから早く出てくるイオン成分、遅く出てくるイオン成分が分離されて出てくる。その出口で試料水の電気伝導度を計測する。カラムからイオン成分が出てくると、そのイオン成分の濃度が高ければ、それに応じて電気伝導度が上がる。カラムを通過した試料水の電気伝導度を時系列にプロットすると下図のようになる。各ピークにおける電気伝導度の大きさから、試料水中の各成分の量を求める。
      イオンクロマトグラフィの原理は、LASBOS 分析化学(大木):イオンクロマトグラフィ にて



      このように、成分分離して経時的にプロットされる信号強度の図を、クロマトグラムという。クロマトグラムのピークの高さ、もしくはピークの面積を信号強度として出力する。

    • 参考として、雨水に含まれる無機イオン成分を分離して計測する原理を示した(次の絵)。降水を集めて、イオンクロ装置(イオンクロマトグラフィー)に雨水試料を導入、各イオン成分の濃度を測定する。雨水だけを測ればよいのではなく、後述するブランク試料や標準試料も測定しなくてはならない。


      雨水試料を分析するにあたり、まずは、純水をベースに各イオン成分の標準試料を作成する。その標準試料を雨水サンプルの測定と同条件で測定する。例えば、標準試料測定で得られたNO3-の電気伝導度のピーク高さ(信号強度)が以下のようになった。

       

        標準試料     調整濃度                           測定結果(信号強度)

      ① ブランク(NO3-濃度 = 0                        → ピーク高 =     453

      ② 標準試料(NO3-濃度 = 0.002 mg L-1      → ピーク高 =    3600

      ③ 標準試料(NO3-濃度 = 0.02 mg L-1        → ピーク高 =   34031

      ④ 標準試料(NO3-濃度 = 0.10 mg L-1        → ピーク高 =  163223

      ⑤ 標準試料(NO3-濃度 = 0.20 mg L-1        → ピーク高 =  330409

      ⑥ 標準試料(NO3-濃度 = 0.50 mg L-1        → ピーク高 =  814093

       

       6種の標準試料①~⑥の測定結果について、濃度をX軸、信号強度をY軸としてプロットした(図1)。最小二乗法により回帰式を求め回帰曲線(直線)を破線で記した。(エクセルを使えば自動で回帰曲線を作ってくれる)この回帰直線が濃度定量に使う“検量線”である。図1によると、濃度と信号強度の間に高い相関(相関係数 R = 0.9993, 決定係数R2 = 0.9986)がみられた。理想的
      な検量線といえる。


      図1 硝酸イオンの標準試料を測定した結果(縦軸:信号強度、横軸:濃度)

       

       図1にて、回帰式は以下のように表されている。

                   Y (信号強度) = 1628215X (濃度) + 1236

       これを濃度計算の式に直すと、

                   X (濃度) = { Y (信号強度) 1236 }1628215

      である。


    • つぎに、濃度不明の未知試料(A)~(C)を測定して信号強度を得た。これら未知試料の信号強度を回帰式に代入して濃度を求めた。

       未知試料(A)の信号強度(ピーク高)= 550409

       (Aの濃度) = {550409 1236 }1628215 = 0.34 (mg L-1)

        未知試料(A)の信号強度は、標準試料測定による信号強度の範囲内にあり、かつ、良好な回帰直線の上にプロットされたので、確からしい定量結果といえる(図2の赤矢印)。

      図2 未知試料(AC)の測定結果から濃度定量の例

       

       

      未知試料(B)はどうだろうか。

       未知試料(B)の信号強度(ピーク高さ)= 3000

        (Bの濃度) = { 3000 1236 }1628215 = 0.00108 (mg L-1)

        (B)の信号強度は原点近傍であり、濃度がかなり小さいことがわかる。低濃度の標準試料②の信号強度より、ほんの少し小さい。回帰直線の低濃度範囲を拡大表示して見ないことには、確からしさが判別できない。不安である。

       

      未知試料(C)の結果はどうだろうか。

      未知試料(C):信号強度(ピーク高さ)が910000

      (Cの濃度)  = { 910000 1236 }1628215 = 0.56 (mg L-1)

        標準試料を測定した際の信号強度を超えている(図2の黒矢印)。回帰直線を範囲外まで延長しても大丈夫だろうか? 不安である

       

      それでは、(B)(C)の不安を解消しよう。まずは、解決が簡単な(C)から対処する。