種間競争
 生物はさまざまな資源をめぐって競争している。これらの資源を他種の生物も利用し、その他種の生物の個体数も変動する場合、多種の個体群動態(群集動態)のモデルでは、どのように表現すればよいだろうか。
 2 (ここでは種1、種2とよぶ) の生物が資源をめぐって競争している状況における、それら2種の個体群動態を表現するためのモデルが以下のロトカ・ヴォルテラの種間競争モデルである。

\( \frac{dN_1}{dt} = r_1N_1 \frac{K_1 - N_1 - \alpha_{12}N_2 }{K_1} \)    (6.5)

\( \frac{dN_2}{dt} = r_2N_2 \frac{K_2 - N_2 - \alpha_{21}N_1 }{K_2} \)    (6.6)

このモデルは連立微分方程式となっている。6.5式が種1の、6.6式が種2の個体群動態を表す。種1と種2は、個体数や内的自然増加率、環境収容力が異なるので、6.5式と6.6式では、それらが下付き文字の12で区別されている。例えばN1r1は種1の個体数と内的自然増加率である。このモデルは一見ややこしいが、じつは単純な発想に基づいた数式なので、拒否反応を示さずに、じっくり考えていこう。
 まず、種1の個体群動態を表す6.5式について説明する。6.5式は基本的には6.4式と同じだが、最後の分子に新たな項として、–α12 N2が加わっている。α12は競争係数とよばれるものだ。種2がいなければ、K1 – N1 = 0となるとき種1の増殖率dN1/dt = 0となる。ところが種2がいる場合、種間競争が起こり種1の利用するはずだった資源を獲得してしまう。この種間競争は、種内競争による密度効果と同様に、種1の増殖率に影響を及ぼす。しかし、種1と種2は違う生物なので、資源の利用の仕方や競争における優劣関係などが違う。そこで、1個体の種2が、種1の何個体分に相当するのかを表したのが競争係数α12である。例えばα12 = 2であれば、1個体の種2は種12個体相当分だけ、種1の環境収容力を減らす。α12 = 0.5ならば、2個体の種2が種11個体分である。種2の個体数が多いほど、種1の環境収容力は種2によって大きく減らされてしまう。このように、6.5式は、種1の個体群動態に、種1の個体数だけでなく、種2の個体数と競争係数の積を加えた項が影響を及ぼすモデルとなっている。
 一方、6.6式は種2の個体群動態を表す。競争係数α211個体の種1が種2の何個体分に相当するかを表したものである。このように、競争係数という概念を使うと、m種の種間競争が生じている状況でも、種1に及ぼす負の影響を、α12 N2α13 N3、、、α1m Nmと表現できそうだ。しかし、そのような計算は大変困難となる。
 さて、6.5式と6.6式の組み合わせによって、2種の個体数はどのような挙動を示すのだろうか。2種の個体数と時間の関係は、各変数の値に応じて色々と変化する。種1のほうが内的自然増加率r1が大きいので、種2よりも早く個体数を増やすが、その後、2種のうち片方の個体群が絶滅することもあれば、共存することもある。絶滅や共存に至る2種の個体群動態は、必ずしも「弱い種が一方的に減る」とか「最初に増える種が優占し続ける」となるわけではない。先に個体数を増やした種が結局絶滅することもある。この多様な個体群動態を実感するには、コンピュータでシミュレーションしてみるのが簡単である

アイソクライン法
 シミュレーションをしなくても、2種が最終的にどのような平衡状態になるのかという結論だけであれば、アイソクライン法という手法を使った図によって検討できる6.5式と6.6式の平衡状態とは、2種の増殖率 (dN1/dtdN2/dt) 0になった状態を指す。6.5式と6.6式の左辺に0を入れて式を変形すると、以下の簡単な式となる。

N1 = K1 – α12N2   (6.7

N2 = K2 – α21N1   (6.8

環境収容力や競争係数は定数だから、これらはどちらもN1N2の一次関数だ。種1の個体数をX軸、種2の個体数をY軸として、X > 0, Y > 0における6.7式と6.8式を図示してみよう。2本の直線で4通りの図が描かれることになる。

(a) 種1の直線のほうが種2の直線よりも全体的に上に位置している
(b) 種2の直線のほうが種1の直線よりも全体的に上に位置している
(c) 2本の直線が交点をもち、種1の個体数が少ないときは種2の直線のほうが種1の直線よりも上だが、種1の個体数が交点の個体数より多くなると、種1の直線のほうが上になる。
(d) 2本の直線が交点をもち、種1の個体数が少ないときは種1の直線のほうが種2の直線よりも上だが、種1の個体数が交点の個体数より多くなると、種2の直線のほうが上になる。

この2つの関数で描かれる直線、ゼロ成長線 (ゼロアイソクライン) 上で、それぞれの種の個体数は定常状態となり、増加も減少もしない。しかし、直線から離れるほど、種1と種2の増殖率 (dN1/dt、あるいはdN2/dt) の絶対値は大きくなるため、個体数は増加速度あるいは減少速度が大きくなる。
 図をもう少し見てみよう。時間がたつにつれて2種の個体数は変動し続けるが、最終的には平衡状態に達する。上記の4通りの図は、順に以下の平衡状態となる。

(a) 種1の直線のほうが種2の直線よりも全体的に上に位置しているならば、種1だけが存続し、種2が絶滅する (個体数が0となる)。たとえ種2が再び出現したとしても、種2は再び絶滅する。つまり、これは安定平衡状態である。種1の個体数が0のときも平衡状態だが、少しでも種1がいると種1が増えていくので、こちらは不安定平衡状態である。

(b) 同じように考えて、種2だけが存続する。

(c) 2つの直線の交点が不安定平衡状態である。つまり、2種の個体数がずっと交点のままであれば平衡状態が維持されるが、交点の座標から少しでも外れると、時間経過とともに2種の個体数は交点から離れる方向に変化していき、最終的にはどちらか片方の種だけが存続する安定平衡状態に達する。

(d) 2本の直線の交点が安定平衡状態となる。つまり、2種の安定して共存するのは、(a) から (d) のうち、(d) だけである。

 このような検討の結果から、2種の共存が安定平衡状態となる必要十分条件がみえてくる。その条件とは、Y軸とX軸の切片に注目すると

K1 < K2/α21  かつ K2 < K1/α12

である。この式の生物学的な意味は、以下のように変形するとわかりやすい。

1/K1 < α21/K2  かつ 1/K2 < α12かつ/K1

つまり、2種の共存に必要な条件とは、(1) 11個体が同種の個体群に与える密度効果 (1 / K1) が、その個体が種2に与える影響 (α21 / K2) よりも大きく、同時に、(2) 21個体が同種の個体群に与える影響 (1 / K2) が、その個体が種1に与える影響 (α12 / K1) よりも大きいときである。もっと短く言うと、2種ともに同種に対する影響が他種に対する影響よりも強い場合に、2種は共存するのである。
 ヤドカリを例として考えてみよう。日本の海岸には、たいてい複数種のヤドカリが共存している。ヤドカリならば、どの種でも、各個体が1個の貝殻を利用する。そのため、競争係数α12とα211であるように思われる。しかし、彼らの分布や貝殻資源に対する選好性が部分的に異なっていて、それらの結果として貝殻利用状況にも違いがあれば、競争係数はいずれも1より小さいことになる。北海道東部にある厚岸湾の岩礁海岸にはテナガホンヤドカリとツマベニホンヤドカリが共存している。これら2種のヤドカリの分布や貝殻資源に対する選好性は明確に異なる (Oba et al. 2008)。このような資源分割によって、ヤドカリたちは共存条件を満たしているのかもしれない。

最終更新日時: 2021年 02月 22日(月曜日) 18:21