研究室の学生が「うわ!4匹になってる」とつぶやいた。昨日採集して1個体ずつ容器に分けて飼育実験を始めたシミコクラゲ (以下、シミコと略す) が、その日のうちに分裂して2個体となり、さらに今日、4個体に増えたとのことである。もしこの調子で毎日2倍に増えるとしたら30日後には何個体になるか、230を計算してみたところ、1,073,741,824、つまり約10億個体という結果になった (暗に切り捨てた7千万以上という数字だけでも十分な驚きである)。生物は潜在的に高い増殖力をもっている。しかし地球は未だに生物で埋め尽くされてはいない。彼らの増殖を抑えている要因はなんだろうか。

個体群
 ある同種の生物による、空間的なまとまりをもった集団のことを個体群 (population) という。「種」という単位は(実際の定義はさまざまであり、実態はさらに闇が深そうだが)生殖隔離によって区分けされた繁殖集団といえる。そして、種には空間的な区分けはない。個体群は同種であることに加えて、地理的なまとまりという意味合いも加わった繁殖集団を指す。一般に個体群は家族や群れなどよりも大きい。そして多くの種は、複数の個体群によって構成されている。ある個体群から別の個体群に個体が移動することによって、移入・移出も起こりうる。

個体群動態:個体群サイズの時間変動
 さて、個体群がもつさまざまな特徴の中で、最も基本的な特徴が個体数である。個体群全体の個体数を個体群サイズといい、一定の空間あたり (例:面積や体積)、あるいは一定の資源あたり (例:1枚の海藻、1個の貝殻) の個体数というように、なんらかの単位あたりの個体数を密度という。個体群サイズや密度の時間変動、つまりある個体群で個体数が増えたり減ったりすることを個体群動態という。ここでは個体群動態を決める要因について考えるために、個体群動態を表現する数式、すなわち数理モデルの中で、もっとも基本的なものを紹介する。
 なお、それらの数式によって、個体数がどのように時間変動するのかを「目で見る」ことができれば、数式の意味も分かりやすいと思う。以下のページでは図を使いたいのだが、その図を自分で描くことができるように、フリーソフトのRの「呪文」についても簡単に解説することにする。なお、Rの基本操作や(本来の機能である)Rで統計解析する手法の説明については、以下の解説サイトを御覧いただきたい。


最終更新日時: 2021年 02月 22日(月曜日) 16:11