私はサーモンが好きであり、そのおいしさや価値がどのような工程を経て生み出されているのかに強い関心を持っている。そこで、サーモン養殖の現場における実際の生産工程や管理体制を直接学びたいと考え、本プログラムへの参加を希望した。また、長崎と北海道では水質環境や生息する生物が大きく異なるため、現地での交流を通して、それぞれの地域における研究対象の違いを知ることができた点も非常に有意義であった。

1.    生け簀の見学と給餌体験
はじめに、サーモンの種苗搬入について説明を受けた。サーモンは淡水で育成された後、海水での養殖へと移行するが、その際には急激な環境変化によるストレスを防ぐため、輸送トラック内で徐々に海水を注入し、魚を海水環境に馴致させているという。このような丁寧な管理によって、サーモンの健康状態が保たれていることを知った。一つの生け簀には約2,000匹ものサーモンが収容されており、想像以上の密度で管理されていることに驚かされた。
次に、実際に給餌体験を行った。餌を与えると、サーモンが勢いよく水面に集まり、活発に餌へ飛びつく様子が非常に印象的であった。一方で、餌の与え方には細心の注意が必要であり、サーモンには満腹中枢がないため、過剰に給餌すると食べ過ぎによる消化不良を引き起こすだけでなく、餌の残渣によって溶存酸素量が低下し、魚にとって大きなストレスとなるという。
また、成長段階が進んでも餌の種類は変更せず、粒のサイズのみを大きくしていく理由についても説明を受けた。これは、サーモンは一度食べ慣れた餌でなければ、たとえ栄養価や品質が向上していても摂餌しなくなる可能性があるためだそうだ。さらに、餌には水面に浮くタイプと沈むタイプがあり、松川さんは生け簀の下層にいる個体にも均等に行き渡るよう、ゆっくり沈む餌を採用しているとのことで、魚の行動特性を考慮した工夫が見られた。
魚特有の臭みは、腸内に餌が残っていることによって生じるため、水揚げ前の約1週間は給餌を行わず、腸内を空にした状態で出荷しているという。この工程は、品質の高いサーモンを提供するために欠かせない重要な管理方法であると感じた。理想的な給餌方法としては、一度に大量の餌を与えるのではなく、1時間ほどかけて少量ずつ与える方が消化の面では望ましいとされている。しかし、実際には人件費や作業効率といったコスト面の制約があるため、現在は1日2回に分けて給餌を行っているとのことで、理想と現実のバランスを取りながら養殖が行われていることが理解できた。

2.    工場見学
続いて、水産加工食品を保管している冷蔵庫を見学した。庫内は−25℃に保たれており、その規模の大きさに圧倒された。冷蔵庫は1階と2階に分かれており、移動ラックシステムによって効率的に管理されている。ボタン一つで大量の荷物が棚ごと移動する様子は非常に迫力があり、最新の設備による管理体制を実感した。また、万が一停電が発生した場合でも、扉を開けなければ2〜3か月間は低温を保つことができると聞き、災害時への備えもされていると感じた。
次に加工施設を見学した。サーモン専用の加工設備が整えられており、これは函館の工場ならではの特徴であると感じた。しかし近年、サーモンの漁獲量は減少傾向にあり、特に今年は漁獲量がもともと少なかった前年の約35%にまで落ち込んだため、工場はほとんど稼働できなかったそうだ。この話から、天然サーモンの資源量が減少している現状を改めて実感し、今後はさらに養殖サーモンの重要性が高まっていくのではないかと考えた。
続いて、松川さんから函館サーモンのこれまでの取り組みと今後の展望について詳しいお話を伺った。函館サーモンは、今後徐々に生産量を増やしていく計画であり、その過程では効率化の工夫や餌の改良、さらには認知度向上に向けた取り組みなど、さまざまな試行錯誤が重ねられていることが分かった。新しいブランドが形づくられていく過程を間近で知ることができ、大変貴重な経験となった。
最後に函館サーモンの試食をさせていただいた。普段食べているサーモンと比べて、味にコクがありながらも後味はくどくなく、非常にすっきりとしていて印象に残るおいしさだった。現在は予約販売のみで、ほとんど函館以外には流通していないとのことだが、将来的には長崎でも函館サーモンを目にする機会が増えることを期待したい。


3.    総括
本プログラムを通して、サーモンのおいしさや価値は、種苗搬入から給餌管理、水揚げ前の調整、加工・流通に至るまでの各工程における細やかな管理と工夫の積み重ねによって支えられていることを学んだ。特に、給餌量や水温に応じた管理方法などは、現場ならではの判断や制約が存在することを実感した。また、天然サーモンの漁獲量減少という現状を知り、養殖は単なる代替ではなく、今後の水産業を支える重要な役割を担っていることへの理解が深まった。講義では理論やデータを中心に学ぶことが多い一方で、本プログラムでは、現場の試行錯誤や熱意に直接触れることができた点が大きな違いであった。今回の経験を通して、サーモンを「食べる側」としてだけでなく、「生産の背景」を意識して捉えるようになり、今後は講義で得た知識を実際の現場と結びつけながら、より主体的に水産業について考えていきたいと感じた。

Diperbaharui kali terakhir: Isnin, 22 Disember 2025, 9:46 AM