長崎大学1年 谷内ののか
私は今まで水産業と言われたら「魚を扱う」という曖昧なイメージしか持っていませんでした。水産については座学で学んでいるだけでは具体的なイメージが持てず、魚を実際に扱う機会もありませんでした。そのため現場を直接見たいと思い、今回サーモン養殖生け簀見学研修2に参加しました。
1.実施した内容
-1 生け簀の見学と餌やり体験
当日の朝入舟漁港に着くと冷たい風が吹き、白波が立っていました。雪が残り、長崎よりも過酷な環境だと感じましたが現地の人からするとまだ暖かいそうです。はじめに稚魚が生け簀に入れられるお話を聞きました。そこで馴致という言葉が何度も出てきました。馴致とは稚魚を淡水から海水の塩分に慣れさせることを言います。馴致を丁寧に行わないと死んでしまう魚が出てきます。魚にとって環境が変化することは大きなストレスで適応するにもコストがかかるのだと思いました。稚魚を船のコンテナに入れるときに下の写真のスロープを使います。コンテナにかけるのではなく「置く」ことで波に合わせ、極力上下せずに移すことができます。ずれないように海水を滝のように浴びながら抑えているという話を聞き、こんなに寒い海岸で水をかぶることは非常に過酷で私だったら耐えられないと感じました。次に餌やり体験を行いました。ペレットは想像よりも大きく、凝縮されているように感じました。函館サーモンには浮餌が使われています。どれだけの餌が食べられたかわかりやすいこと、海底に沈殿しないため環境負荷が低減されることがメリットです。ペレットは魚の成長過程に合わせてサイズのみを調整することで、給餌環境の変化を最小限に抑え、魚が食べ慣れた状態を維持できるよう工夫されています。魚粉やイカゴロエキスが含まれており中身のこだわりも感じました。

-2 水産加工工場見学
はじめに冷蔵庫に入りました。冷蔵庫は2階建てで1階は製品、2階は原料として分けられていました。棚が天井いっぱいまで伸びていて、多くの荷物が詰められており圧巻の景色でした。ここにある全てがマイナス25度だと思うとより寒く感じました。次に加工工場の見学を行いました。行った際はサーモンの時期でした。入荷され、冷蔵庫で保存され、解凍されたサーモンが機械と人との手によって1枚のフィレに製造される過程が興味深かったです。サーモンの端材はどうしているのか尋ねたところ、頭はコラーゲンとして、骨は缶詰として売られていますが、内臓や皮は産業廃棄物として捨てられているそうです。端材を資源として利用できるような仕組みを作りたいと思いました。最後に函館サーモンを食べました。生臭くなく、赤みが強く、油が適度に乗っていて美しいと感じました。食べてみると味が濃いですが、さっぱりしており本当においしかったです。サーモンの概念が変わりました。

2.省察
養殖の現場を見学した後、加工工場を訪れたことで、魚が食卓に届くまでの流れを理解できました。その中で特に印象に残ったのは端材の処理方法です。サーモンは1匹のうち約70%を商品として利用できる生産性の高い魚種ですが残りの30%は利用できていないのはもったいないように感じました。端材のうちヒレや腹骨の辺りは利用できていません。バイオマス発電の1種であるメタン発酵の資源として利用できる可能性があると考えます。メタン発酵はウェットで生物分解ができる食品残渣に適しています。しかしサーモンは塩分が高く、脂質も多いため実現には多くの課題が存在すると思います。しかし近隣の七飯町ではメタン発酵の実例があり、地域として進んでいることを知りました。今回の体験を通して座学だけでは気づけない現場の工夫や自然への気遣いを実感しました。今後は水産業の発展と環境保全を両立させる視点を持ち続けたいと思います。
3.まとめ
これまでテレビや授業の写真や話を通して学んできた以上に、養殖の世界はシンプルでありながら、想像以上のこだわりが詰まっていると感じました。餌の種類や内容物、量、撒く時間や回数など、数多くの試行を重ねて最適な方法を導き出し、実践されている姿は非常に印象的でした。今回の見学を通して多くの学びを得ることができ、このような貴重な機会をいただけたことに心より感謝申し上げます。