海洋表面と密度躍層(750 m)、海洋深層(3000 m)のリン酸塩(主要栄養塩の一つ)の全球分布を下に示します。


表面におけるリン酸塩の分布



密度躍層 750 mのリン酸塩の分布



深層(3000 m)のリン酸塩の全球分布


海洋表面(上図)と深層3000 m(下図)におけるリン酸塩(umol/L)の分布.World Ocean Atlas, (2013) による気候値データ(1955-2012平均) NOAA, National Oceanographic Data Center(NODC)  http://www.nodc.noaa.gov/OC5/woa13f/index.html


 各大洋で、表面海水と深層海水のリン酸塩濃度を比べると、表層に比べて深層海水の方が1~3 μmol/Lほど高濃度です。また、北大西洋深層(深層循環の出発点)ではリン酸塩濃度が低く、北太平洋深層(深層循環の終着点)が最も高いのが特徴です。

 深層水でリン酸塩濃度が高いのは、表層で生産された有機物が深層へ輸送されて、深層水中で有機物分解とリン酸塩の海水への再生が起こったからです。深層への有機物輸送のルートとしては、北大西洋高緯度域での海面冷却と、深層水の形成とともに溶存有機物が運ばれるルートがあります。もう一つは、有機物粒子の深層への沈降です。有機物粒子のほとんどが表層から密度躍層(1000 mくらいまで)で分解してしまいますが、とりわけ大きな沈降速度を持てば、深層まで有機物粒子が到達します。

 北大西洋深層に比べて、北太平洋深層でリン酸塩濃度が高いのは、深層循環で1500年くらいの時間をかけて深層水中でリン酸塩が再生して蓄積した結果です。

 密度躍層(750m)のおおまかな特徴は、深層における分布と似ていて、北大西洋高緯度で濃度が低く、北太平洋で高濃度です。詳しくみると、大西洋の低緯度(とくにアフリカ大陸側)でも高濃度になっています。表層で有機物粒子に固定されたリン成分が、深層への沈降途中で分解・無機化されるためです。深層や密度躍層のリン酸塩の分布は、酸素消費量(AOU)の分布とよく似ています。両者とも、有機物の分解(無機物の再生と酸素消費)によるものだからです。それなら、有機物分解と栄養塩再生について、なにか定量的な関係が見い出せないでしょうか。次のページで、生物体を構成する主要元素の、C、N、Pの比率を解析をします。



Last modified: Friday, 26 June 2020, 10:46 AM