長崎大学大学院 水産・環境科学総合研究科 修士2年 山本悠理
実施した内容(実習から学生交流まで)
この度、共創の場×CREENカリキュラムのプログラムの一環としてサーモン養殖場と加工場を訪問しました。私は長崎大学にてブリやシマアジ等の養殖に関する研究を行っていることに加え修士号取得後も養殖に携わる研究を行う予定であり、本プログラムには長崎で馴染みの無いサーモン養殖に関する情報収集や現場体験による経験獲得を目的に参加しました。サーモン養殖に関する研修への参加は2度目ですが、前回は6月と魚のサイズや環境が異なるため、12月という寒さの厳しい時期での現場の様子を学び、1年を通したサーモン養殖から、問題点、それに対する解決策などを考察することを本研修の目的としました。
実習内容
1. 養殖生簀見学(株式会社古清商店)
サーモン養殖場訪問では函館漁港の構内に設置された海面養殖生簀と実際に水揚げの見学が予定されましたが、研修当日の函館到着となり、私は最後の生簀前での説明のみ受けました。本レポートではその際にお伺いした内容と私が直接マルナマの方や先生方、共に参加した友人たちから頂いた情報を示します。
見学した生簀には6月に見学した出荷サイズである2~3キロの個体たちではなく、11月ほどに中間育成と海水馴致を終えたばかりの成魚(約600g)が飼育されていました。生簀はおよそ12(W)×10(L)×3(H)の比較的小規模にて行われており、小ロットで高い付加価値を付与した個体を市場に出荷します。前回の研修では6月というワンスポットのみ見学したためあまり実感できませんでしたが、あれから半年しかたっていないにもかかわらず、すでに新しい育成魚が入っており、彼らも6月に出荷されることを考えると、海水暴露後のサーモン成魚の成長スピードが如何に素早いものであるかを実感しました。
また、興味深かった点として、魚病や摂食障害などに対する対策について記載します。養殖業では中間育成の段階で抗魚病として、ワクチン接種を行います。今回見学したサーモン養殖現場ではもちろんワクチン接種は行っていますが、それ以前に種苗の選抜育種を行っているとのことでした。選抜育種とはより強い個体を増産することで、具体的にはマスで飼育した際の魚病への強さ、餌食いの良さなどの飼育環境内にてカーストが高い個体のみを掛け合わせることで、強く、よく摂食する個体のみを生産することです。サーモン養殖において、もちろん低水温帯での飼育により寄生虫等の活性を抑えられているのは確かですが、さらにワクチン接種、選抜育種を行うことで、2重3重に斃死個体の削減対策をしており、生産者さんたちのリスクマネジメントや効率性への意識の高さを感じました。
2. 加工工場見学(株式会社古清商店)
加工工場見学では水揚げしたサーモンの前処理からセミドレス、フィレ、包装、冷凍、保存までを見学しました。ほとんどすべての工程が手作業で行われており、歩留まりも約85%とかなり高い可食部保持率でした。しかしながら、昨今の従業員不足の影響から、ドレスの状態から魚体を半分に切断するセンターカットやその後の真空パックのための作業は機械にて行っているそうです。昔参加したフードエクスポにて加工における機械を見学したことが在りますが、どれも欧州を中心とした海外製のものが多く、実際にマルナマさんでもドイツ製の機械を使われているようでした。海外製機械は故障した際のテクニカルケアに時間と費用を要すため、ランニングコストがかさんでしまう事実がありますので、やはり水産業に従事する人口を増やすことは今後の水産業に必要不可欠であると感じました。
本研修での学び
本研修を通して、サーモン養殖の他魚種養殖との違いや養殖における諸問題への対策等を学びました。本音を申し上げますと、最も驚かされたことは別にあり、函館の異常なほどの気温の低さと風速です。函館空港に到着した時点で、寒さと風の強さに驚かされ、養殖現場についた際には空港で感じた寒さと比較にならないほどの寒さを感じました。しかしこの寒さは水産業を考える上で非常に重要であると考えており、それは実際にこの極寒の環境下で作業を行う水産業者の方々の存在に起因します。今後の水産業発展のために、まずは冬の北海道のような厳しい環境下ででも人間の負担にならないような、スマート水産業の開発が必要不可欠であると考えており、その実現にはまず大学や大企業などが進んで新技術の開発、利用、利用の際のフィードバック、簡略化して各業者へ供給を行うことが重要であると感じました。
最後に、本研修にてお世話になった株式会社マルナマ 松川様、北海道大学 三瓶様、山口様、その他これまでの研修にてお世話になった方々に、厚く恩連申し上げます。今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。
それと、試食で頂いた北海道サーモン、非常においしかったです。また来ます。