雨水(淡水)のpHを計算します。
雨水は、水蒸気が凝結したものだから、真水と仮定します(※)。空から落ちてくるのだから、二酸化炭素は大気と雨水で溶解平衡に達しています。溶解平衡の式は、
K0 = 【H2CO3】/pCO2 式(2)
水中炭酸成分の解離平衡の式は、
K1 = 【HCO3-】・【H+】/【H2CO3】 式(3)
K2 = 【CO32-】・【H+】/【HCO3-】 式(4)
水の解離平衡の式は、
Kw = 【H+】・【OH-】 式(5)
でした。
先の問題で、炭酸成分の比率とpHの関係を図示した。水が凝結しただけの雨水(二酸化炭素が溶解する前)は中性(pH=7)だから、CO32-の比率は1%もありません。そうであれば、CO32-の割合は小さいものとして、式(4)の解離(【HCO3-】↔【CO32-】+【H+】)は、計算を楽にするため考えなくてもよいことにしましょう。
大気中CO2濃度(pCO2)を与え、式(2)(3)(5)を解いて、【H+】を求めたいのですが、方程式が3個で、未知数が4個なので、これだけでは解くことができません。何か条件を与える必要があります。
条件式の追加: 水中のイオン成分としては、正イオンがH+、負イオンがHCO3-とOH-が存在します。雨水が電気的に中性(帯電したいない)とすれば、正イオンと負イオンの電荷量が等しい条件を課すことができます。(電荷保存則)
電荷保存則: 【H+】= 【HCO3-】 + 【OH-】
これに、式(3)と式(5)より、【HCO3-】と【OH-】を代入します。
【H+】= K1 ・【H2CO3】/【H+】 + Kw/【H+】
これに、式(2)より、【H2CO3】を代入する。
【H+】= K1 ・K0 ・pCO2/【H+】 + Kw/【H+】
この式から、水素イオン濃度を求める式に変形すれば、
【H+】= ( K1 K0×pCO2 + Kw)0.5 式(9)
真水に対する平衡定数は、K0 = 0.04 (mol/L/atm), K1 = 4.0×10-7 (mol/L)、 Kw = 10-14 (mol/L)、pCO2 = 3.8×10-4 (atm)なので(※※)、これらを上式に代入すれば、【H+】= 2.47×10-6 (mol/L)と計算できます。
pHにすると、雨水のpH = -Log( 2.47×10-6 ) = 5.61 となります。
ちなみに、大気と接している真水の【DIC】は、
【DIC】 =【HCO3-】+【H2CO3】= 【H+】+K0・pCO2
= 2.465×10-6 + 0.04・3.8×10-4 = 1.77×10-5 (mol /L)
= 0.0177 (mmol/L)
です。
海水の【DIC】が2 (mmol/L)くらいだから、真水に対して海水は、100倍近くも多くのDICを溶解させることができるのです。これは、先に説明したように、海水にはアルカリ度があり、それを打ち消すだけDICが含まれるからです。これが「海水は炭素の巨大な貯蔵庫」たる所以です。海水中のDIC濃度を計算するのはあとでやります。
※ 雲粒や雨粒に大気中の酸性物質(H2SO4, HCl、HNO3など)が取り込まれれば、雨水のpHは急激に下がります。今回の計算は、これら汚染物質の影響が無視できるようなキレイな雨のpHを想定しました。真水に炭酸が溶けたときのpH(今回の計算ではpH5.61)よりも低いpHの雨を、「酸性雨」といいます。
※※ 大気中のCO2濃度(モル分率)は、大気の単位モル数(1モル)あたりに含まれるCO2モル数の割合(モル分率)で示され、現在、380 ppmくらいです。CO2を理想気体と仮定すれば、モル分率と分圧(atm)が等しくなります。