二酸化炭素の溶解平衡濃度を下図の薄青色で示しました。拡大図を見ると、表層で濃度が低く、表層以深で濃度が上昇、深層水(3000 m以深)では高濃度で一定の様子がみられます。なぜ、このような分布を示すのでしょうか。

 これは、冷たい水には、より多くの二酸化炭素が溶解するからです。(溶解度の温度依存性、ヘンリーの法則) 高緯度海域で冷却された海水が、多くの二酸化炭素を溶解させて、深いところに沈み込みます。この冷たく、二酸化炭素を豊富に含む水が、世界中の海の深層に広がっているのです。高緯度以外の海域では、暖かい水が表層を覆っているので、二酸化炭素の溶解平衡濃度は低くなります。そのため、このような鉛直分布になるのです。

 このような物理プロセス(溶解と深層水形成)により海洋深層への炭素隔離が促進されることがわかります。この促進効果のことを、二酸化炭素の深層隔離における「溶解ポンプ」と呼びます。

 つぎに、下図の全炭酸濃度の観測値と、溶解平衡濃度(計算値)の違いに注目してください。表面から深い方へ向かうにつれて、急にその差が大きくなっています。物理プロセス(溶解と深層水形成)以外に、二酸化炭素を深層へ運ぶ作用があることを意味します。これが、海洋への炭素隔離の生物による作用と考えられ、二酸化炭素の深層輸送における「生物ポンプ」と呼びます。




 つぎに、生物による作用を詳しくみるため、観測値と溶解平衡濃度の差分(生物ポンプ分)を抽出して鉛直分布の図にしました。

 表面から深い方に向かうにつれて、その差が急に大きくなることがわかります。そして、水深1000 m付近に緩やかな極大があることがわかります。その極大以深では緩やかに低下しますが、おおよそ一定になっています。



 生物ポンプは、海洋表層で生産された生物粒子が深い方へ沈降することによって駆動されます。

 海水中の生物由来で炭素を含む粒子としては、有機物粒子と、炭酸カルシウム粒子(円石藻や有孔虫の殻)があります。それぞれ、海洋表層で生産され、深層に炭素を運ぶ役割を果たします。沈降粒子中の有機物と炭酸カルシウムの量を比べて、生物ポンプの内訳を求めると、以下のようになります。


 1000 mより浅いところでは、炭酸カルシウム(CaCO3)の沈降と無機化による効果が小さいことがわかります。そして、深層水では一定の値をとります。これを理解するには、炭酸カルシウムの溶解平衡、アルカリ度の変化の計算を知る必要があります。あとの章で、学んでください。ここでは、炭酸カルシウム粒子の溶解については定性的な説明で終わりにします。

 生物起源の炭酸カルシウム粒子の深層への輸送以上に大きな影響を持つのが、有機物粒子の深層への輸送です。表層で生産された有機物粒子の多くは、表層や1000 m以浅の密度躍層で微生物により分解されて、全炭酸に変わります。そのため、1000 m付近に有機物輸送による生物ポンプの効果の極大が現れています。1000 m以深、深層まで、有機物輸送による効果は大きいまま保たれています。深層水中での有機物分解の効果も、含まれているからです。この図で表されているのは、全炭酸の観測値から、溶解平衡分と炭酸カルシウム輸送による分を差し引いた残りを、有機物輸送による効果としているから、深層水中では溶存有機物の分解の効果も含まれていると考えるべきなのです。




마지막 수정됨: 금요일, 22 5월 2020, 8:04 AM