10時ごろに港をカナックを出航し,二隻のボートでシオラパルクのあるフィヨルドに向かった。

 途中,海氷が多く,ボートは海氷を縫って海を進んだ。

 フィヨルドに近づくとたくさんの鳥(Little Auk,ヒメウミスズメ)が見られた。

 フィヨルドの入り口に到着したところから観測をスタートした。私は海鳥の目視観測のアシストを行った。もう一隻のボートでは海鳥が逃げるのを防ぐために目視観測を行う船を追従しながらフィヨルド内の9地点で海洋観測(プランクトンネット(水平曳き),CTD観測,ディスクを使った濁度観測)を行った。

 海鳥の目視観測は,37 knot でゆっくりと航走しながら,船の片側から鳥を探し,①時間,②数,③鳥の種類,④行動,を記録した。シオラパルクのあるフィヨルドでは主に,Little AukLA,ヒメウミスズメ,Alle alle),MurreMU,ハシブトウミガラス,Uria lomvia),GuillemotGi),FulmarFU),Glaucous GullGG),KiKiltiwake)の六種類の鳥が見られる。行動についてはSitting on waterSOW),Sitting on iceSOI),FlyF),ForagingFor)4種類に分けられる。実際の観測では,場所や船速,船のどちら側で観測を行ったか(右舷/左舷),等の基本情報とともに,例えば「13:15 1 Gi f」(1315分に1羽のGuillemotが飛んでいるのが見られた)のように略称で野帳へ記入を行った。

 氷河末端まで観測を行った後にシオラパルクへ向かった。Little Aukの糞から大地に栄養がもたらされることによって植物が生育することができるため,カナック周辺などとは異なる景観となっている。シオラパルクには桟橋がなく,船を砂浜に乗り上げて上陸する必要がある。村には40人ほどが生活をしており(2023年),歩いても10分ほどで回れてしまうほどの小さな集落を形成している。船を降りて集落に入ると,動物の香りがしてそこかしこの家の軒先にセイウチ,ジャコウウシ,イッカクなど,ハンターが仕留めた獲物の肉や頭部が置かれている。犬に食べられないようにか,多くの肉は家の軒先に建てられた櫓の上に置かれていた。カナックではセイウチの牙もジャコウウシも見たことがなかったので,その牙の大きさに圧倒された。

 カナック沖では,ハリバット漁で使われるカイトの投入実験が行われた。カイトを用いた延縄漁業は,カナック周辺では主に冬季に氷に穴をあけることで行われる。そこで,投縄時におけるカイトの挙動や漁業者ごとに異なるカイトの大きさ等,様々な側面からこのハリバット漁,並びに周辺で行われる漁業全般についての研究・調査が行われている。今回の実験では実際に漁で使用されているカイトを借り,センサー(加速度,深度,温度)を取り付けて投縄時の挙動を計測する実験が行われた。実験の手順としては,実際の漁における使用方法を模倣し,カイトを投入後に一定時間ロープを繰り出し,一度ロープを止め,またロープを繰り出すという操作を行っていた。また,比重や滑り具合等が異なる二種類の素材のロープを使用し,カイトの挙動の比較を行っていた。

 また,経由地であるイルリサットや,カナック滞在中に,ダンプサイト(カナックのゴミ捨て場)に捨ててあるカイトを調べたり,港で作業を行っている漁業者に聞き込みを行ったりすることで,カイトのサイズやロープ径について多くのデータを集めていた。




船が着く砂浜から望む,シオラパルクの集落の様子(撮影:大谷)

カイト投入実験の様子




最後修改: 2025年 03月 20日(週四) 05:54