有機硫黄ガス -海洋と大気の硫黄循環-
海洋表層と大気の硫黄循環のイメージを描きました。海洋の硫黄循環は、海洋植物プランクトンとバクテリアの活動によって駆動されます。有機硫黄ガスは大気へ放出されると、硫酸の微粒子の元となります。大気環境に重要な役割を果たします。
【海水中】
- 海洋植物は海水中のSO42-イオンを使って、浸透圧調整に使うDMSP(Dimethylsulfoniopropionate;DMSP)を生合成します。
- 植物細胞内でDMSPが分解、もしくは細胞が死んでから海水中でDMSPがバクテリアの作用で分解すると、CH3SCH3(ジメチルサルファイド;DMS)になります。
- 海水中でDMSはバクテリアの作用でメタンチオール(MeSH)になります。
- MeSHは海水中で光分解して、COSやCS2になります。
【大気中】
- DMSは大気へ放出されると酸化されて二酸化硫黄(SO2)になり、さらに硫酸分子になります。
- COSは大気へ放出されると、成層圏まで到達してSO2になり、硫酸分子になります。
- 大気中の硫酸分子は、周囲の水分子やアンモニア分子と凝縮して、微粒子になって雲粒の元になります。
海水中の有機ガスのなかでも、硫化ジメチル(英名ジメチルサルファイド(DMS);CH3SCH3)が最も多く、有機ガスの90%以上を占めるともいわれています。海洋植物に由来するので、生物生産性の高い海域で高濃度のDMSがよく観測されています。メタンチオールの海水中濃度はDMSの1/10~1/100くらいです。
おまけ(今後の展望) メタンチオールをはじめチオール基(-SH)をもつ有機物は、海水中の還元物質として重要な位置を占めている可能性があります。海洋では、還元性の有機硫黄化合物が微量元素(ヨウ素や鉄)の化学形態の変化に関与しているかもしれません。従来、海洋の硫黄循環といえば、CLAW仮説に触発されて、DMSによる雲粒形成能ばかりが注目されてきました。近い将来、海洋微生物の作用で駆動される硫黄循環と微量元素動態の関係、海の酸化還元状態を探る研究が注目されると思います。これは大仕事になりそうなので、海洋学オールジャパン体制で臨みたいところです。現在会員数1名!メンバー募集中。
Last modified: Friday, 29 May 2020, 1:38 PM