レッドフィールド比は、“生物体粒子に含まれる元素の平均組成比”であること(※)を覚えておいてください。非生物体が分解を経るとC:N:P比が変ることを説明します。

※ 栄養状態や種によって大きく変わります。なぜ、レッドフィールド比からずれるのか?が、研究の興味の対象になります。

 生体が死滅したとき、その有機物を構成する成分は一様に分解するのでしょうか。生物を構成する成分のうち“細胞壁”は如何にも丈夫そうな構造をしていて、なかなか分解されないでしょう。いっぽう、“酵素”は反応に富み、海水中に浸み出せばすぐに分解されそうです。生体内にエネルギー源として蓄えた炭水化物や脂質も、バクテリアにとっても貴重な栄養源になりうるので、すぐに分解されそうです。

 実際、生物体POMの元素組成比はC : N : P = 106 : 16 : 1 であるところ、この有機物の分解が進んでDOMになると、その元素組成比がC : N : P = 300 : 22 : 1くらいになります(下の図)。さらに、深層水中で長時間経過したDOMでは444:25:1くらいになります。有機物中の脂質やタンパク質は早く分解し、炭水化物の細胞壁の分解は遅いためです。炭水化物は、C, H, Oしか含まないので、炭水化物でできた細胞壁が分解から免れるなら、有機物中にCが残りやすいのです。そのため、生物体POMが死滅したのち、分解途中の有機物では時間経過とともにC比率が高くなるのです。(Chemical composition and reactivity marine dissolved organic matter, edited by Hansell and Carlson, chapter 3, page 66, Academic Press, 2002 )




 これら有機物から栄養成分(窒素、リン、炭素)が抜けた分、海水に無機栄養塩(硝酸イオンやリン酸イオン)が再生します。海水で再生された栄養塩が再び生物生産に使われます。海水中の栄養塩成分の分布も複雑であることが想像されますね。栄養塩循環については、あとの章で説明します。


Last modified: Friday, 29 May 2020, 12:33 PM