平均年齢六千歳の海洋DOC

 北大西洋深層のDOCの平均年齢は四千歳、北太平洋では六千歳に達します。その差、二千年。これは、深層循環の時間(千~千五百年)よりも長いです。このカラクリを考えてみましょう。ちなみに、表層海水では、何処でも、おおよそ二千年です。


 まず、二酸化炭素(炭酸成分)の14C年代推定を考えます。海洋表層は大気と接しているので、表層海水中のCO2の14C比率は大気と同じ。つまり、表層海水のCO2の14C年齢は0歳です。北大西洋で表層水が深層に沈み込むと、大気からの14C供給は無くなります。深層水が北太平洋に到達したときにはCO2の14C比率は大気比率に対して0.83倍まで減っています。これを14C年齢に換算すると1500歳になります(※)。これは、深層循環による水の移動時間とみなすことができます。

※計算方法は、一つ前のページで学んでください。



 次に、DOCの14C年代の変化について考えます。

 海洋植物がCO2を取り込んで、粒子状有機炭素(POC)にします。生きている植物体がPOC、もしくは死んで間もない植物がPOCなので、POCの14C年齢は0歳に近いです。POCが分解した直後のDOC(下の図中では、緑色のモヤモヤで表記)の14C年齢も0歳に近いでしょう。しかし、海水中には難分解性のDOCも存在しているので、表層海水中のDOCの14C比率は大気に比べて小さく、実測により、平均年齢は2000歳と推定されています。その表層水が北太平洋で深層に沈み込むと、DOCの平均年齢は4000歳となり、さらに深層循環の終着の北太平洋では6000歳になりました。深層循環のあいだに2000~4000歳も古くなったのです。深層循環の時間スケールは1500年くらいだから、実際に経過した時間よりもDOCの平均年齢がより大きく増したのです。これは、DOCの分解性のカラクリを考えなければなりません。




 POCから生成されたばかりの“若いDOC”は分解・無機化されやすいです。若いDOCには、生物の軟組織に由来する成分が多く含まれるからでしょう。したがって、表層水が深層に沈み込んだときには、“若いDOC”の割合が小さくなり、元々あった難分解性の“古いDOC”ばかりが残ってゆく。その結果、深層循環の終着の太平洋深層では、DOCの平均年齢が6000歳にもなったのです。そして、このように、形成されてから数千年も経過している難分解性DOCばかりが深層水に残り続け、それが表層水にもたらされるのだから、表層水中のDOCの平均年齢は2000歳にもなったと考えられます。



 ところで、深層水中でDOCがCO2になれば、CO2の14C年齢の推定に誤差が生じないのでしょうか。海水中の全炭酸の濃度が2000 μmol/Lくらいに対して、DOC濃度は50 μmol/Lにも満たないです。DOCが微生物により分解されて、それに含まれる14Cとともに二酸化炭素に変わったとしても、元々多量にあった二酸化炭素の14C比率に与える影響は無視できる程度です。


Last modified: Friday, 29 May 2020, 12:18 PM