「海洋生命系のダイナミックス3 海洋生物の連鎖」(木暮一啓【編】東海大学出版)にて、最新の研究結果をもとに、海洋での難分解性有機物の発生の仮説を述べています。海洋生命系ダイナミクス③を筆者(大木)なりに解釈して図にしたものを記します。

 原核生物の細菌類は、生物体の粒子状有機物POMのなかでも最小サイズです。これが死滅して、少し分解が進んで細かくなれば、すぐに溶存態の画分DOMに移ります。細菌類の中には、DOMを餌とする者もいます。そのような細菌類が増殖すれば、DOMがPOMに戻る作用がうまれます。

 海水中の難分解性有機物の組成を調べてみると、微生物の膜成分の破片が多く見つかっています。生物の細胞を守る膜なのだから、分解されにくい構造なのでしょう。微生物(細菌など)が死滅して分解を経ると、膜由来成分が細分化されていきます。これに単量体(糖類やフェノール類)が重合を繰り返して高分子化すると、難分解性の高分子有機物になると考えられます。




 なお、海水中の有機物を微生物が分解するときに、難分解性有機物が発生することも確認されています。難分解性有機物の成因については、現在、精力的に調べられている注目のテーマです。 

 フェノール類(ベンゼン環-OH)は可視光を吸収します。フェノール類が重合した高分子有機物は茶褐色を有するのが特徴です。色を有する有機物ということで、Colored DOM とかChromophoric DOMと称され、C-DOMと呼ばれます。また、光を吸収すると違う波長の光を発する“蛍光特性”も有します。これを蛍光性溶存態有機物(Fluorescent DOM:FDOM)と呼びます。この特性を利用して、海水に波長320 nmのUV-A(励起光)を照射して、紫色波長420nmの蛍光を発するものを腐植様物質と定義しています。蛍光強度が大きいほど腐植様物質の量が多いのです。海水の蛍光強度を調べて腐植様物質の分布が調べられています。

 海洋の溶存有機物の多くが難分解です。難分解性有機物は、平均数千年をかけて徐々に分解されるのです。一部は微生物により分解され、一部は海洋表面で光分解すると考えられています。難分解性有機物が光分解すると、その一部がガス化する説も提唱されています。




Last modified: Friday, 29 May 2020, 11:40 AM