海水中の有機炭素が正確に測られるようになって、ようやく、その全球分布の全貌がわかってきました。表層水中のDOC濃度は60 – 80 μmol L-1と変化が大きく、深さとともに濃度が減少します。表層で有機物粒子が生産されて、表層内で多くの有機物粒子が微生物による分解を受けて、溶存態になるからです。



左図:太平洋と大西洋におけるDOC鉛直分布の模式図、右図:大西洋と太平洋の深層水中DOC濃度

(Hansell and Carlson, Nature, 395(17), 263-266 (1998)と Ogawa and Tanoue, Journal of Oceanography, 59, 129-147 (2003)のデータ、Hansell et al., Oceanography, 22(4) 202-211 (2009) のDOC鉛直分布図を参考にして左と右の図を作成)


 各海域により有機物生産量、表層水の滞留時間は異なるので、表層のDOC濃度にも偏差が生じます。表層を抜けた有機物粒子(沈降粒子)は分解しながら沈降を続けるので、表層以深でもDOC濃度は若干高くなります。深層まで到達する有機物粒子はかなり少ないので、深層では、DOC濃度は鉛直的に一様な分布になります。

 各大洋の深層水中のDOC濃度の分布(上右図)を見てください。深層循環の出発点である北大西洋深層水の44 – 48 μmol L-1に対して、終着点の北太平洋では34 – 39 μmol L-1です。およそ1500年の深層循環の間に、DOC濃度が10 μmol L-1ほど減ったのです。この減少分を鉛直分布(上左図)に当てはめると、薄いグレーで塗った幅に相当します。いっぽう、深層循環により1500年間もの時間が経過しても、水中のDOCのうち36 μmol L-1(鉛直分布の白抜き部分)は分解を受けていないことを意味します。つまり、1500年間でも分解しないような、難分解性の有機物が存在することが示唆されるのです。

最終更新日時: 2020年 05月 29日(金曜日) 11:31