粒子の沈降(ストークス沈降の計算結果)

 ストークス沈降の式をもう一度見てください。





 この式で求めたいのは、終端速度(沈降速度):V終端 です。未知数は、粒子の半径 r と密度 ρ です。(水の密度や粘性係数は観測結果から計算、重力加速度は定数です)

  粒子半径は、海水をフィルターで濾して粒子をサイズ分画したり、粒子にレーザー光を照射して調べることができます。あとは、海水密度と粒子の密度が決まれば、粒子の沈降速度が計算できます。

粒子密度の概算

 海水密度は1.025 g cm-3くらい、細胞質は海水よりも若干高密度で1.03~1.10 g cm-3です。珪酸や炭酸カルシウムの殻を身にまとっている海洋プランクトンもあり、その殻密度は2.1~2.7 g cm-3です。粒子状有機物の密度を正確に求めるのは難しいですが、例えば、生物体であれば、大部分が細胞質に占められると考えて、1.05 g cm-3としてもよいでしょう。糞粒の密度として1.19 g cm-3を採用している例もあります(海洋生命系のダイナミクス③海洋生物の連鎖235ページ)。動物が摂取したエサのうち、柔らかい細胞質は消化され易く、多くの殻が糞に残っているのだから、糞の密度は生物殻と細胞質の間くらいを取るのです。

 一般人からすれば、糞の密度なんて、、というマニアな世界であるが、海洋学で物質循環を考えるうえでは大事なことなのです。


 密度を仮定、粒子半径(r)を変数として、粒子の沈降速度を計算した結果を下の図に表しました。




 亜寒帯の表層海水(25σ)を沈降する粒子の速度を計算し、粒子サイズを横軸(半径; μm)、終端速度(沈降速度; m day-1)を縦軸にプロットした図です。例えば、密度1.05 g cm-3の生物体の場合、植物プランクトン1個体のサイズ(10 μm)では沈降速度は0.3 m day-1しかなく、実質的には沈降せず漂っているままです。このように浮遊している粒子のことを、浮遊粒子とか、懸濁粒子とよびます。

 同じ密度の生物体でも、動物プランクトンの死骸で100 μmものサイズがあれば、30 m day-1の速度をもち、1~数日内に表層混合層(厚さ30~150 m)を通り抜けます。このような十分な沈降速度をもつ粒子のことを、沈降粒子とよびます。

 植物プランクトン細胞でも、百個も凝集すれば、十分な沈降速度をもつことができます。いっぽう、高密度化された糞粒(密度1.19 g cm-3)では、数十μmのサイズであれば、数十 m day-1の沈降速度をもちます。数十μmもの糞をするのは、その十倍サイズ(数百μm)の動物プランクトンでしょうか。

 補足⑦で説明するセジメントトラップ観測では、トラップ試料中の動物の糞の個数やサイズ、密度を詳細に調べた研究もある。このような学問をスカトロジーという。ここまでくるとマニアな世界と認めざるをえない。

 陸から風で飛ばされてくる鉱物粒子(砂粒)の密度を2.65 g cm-3とすれば、上の図より鉱物粒子の沈降速度が読み取れます。東アジア域で風で飛ばさる鉱物粒子の代表格は黄砂ですが、黄砂粒子のメインサイズは数μmしかないので、海水中での沈降速度は1 m day-1にも満たないです。これだと海洋表面から海底5000mまで黄砂粒子が到達するのに十年以上を要してしまいます。

 セジメントトラップによる観測(後述)によると、黄砂の発生が春先で、その1~2ヶ月後には海洋深層まで黄砂粒子が到達するという報告もあるので、黄砂粒子は相当な速度で沈降しているようです。この理由として考えられるのは、巨大な有機物粒子(生物死骸の凝集体など)に鉱物粒子が付着することにより、短時間で海洋深層まで到達することがあります。このように、無機物の鉛直輸送にも、有機物粒子が決定的な役割を果たしているのです。


Diperbaharui kali terakhir: Khamis, 16 April 2020, 4:37