T-S分布が理解できれば、水産海洋学の各分野への興味が増すだろう。例えば、亜熱帯域で孵化したサンマが北上して餌が豊富な亜寒帯域で夏を過ごす。秋には産卵場となる亜熱帯域を目指して南下する(補足③)。魚は、稚魚期の適水温、成長してからの最適水温、生存可能な水温帯などがあり、魚種によっても様々である。魚は水温に敏感で、水温分布に従い一生を遂げるのだから、水産資源を追う人間もT-Sに注視しなければならない。一般財団法人漁業情報サービスセンターでは、主要魚種の海況情報を提供している。活況な漁場と水温分布の図を重ねて提供しているように、実際の漁業でもT-S分布が大事なのが伺える。


 水産海洋学入門(水産海洋学会編,講談社,第4.5章:伊藤幸彦)によると、移行領域には亜熱帯水に由来する暖水渦(高気圧性渦)が複数存在し、暖水渦から派生する帯状の暖水ストリーマが、イワシ類、サバ類、サンマなどの北上回遊経路となっている。暖水ストリーマの先端にはマイワシ、暖水渦の内部および縁辺にはカツオやクロマグロの漁場が形成される。いっぽう、南下期(秋)には亜寒帯水に由来する冷水渦が回遊経路となる。冷水渦に沿ったサンマやマサバの南下は、亜熱帯系の暖水渦によって停滞し、冷・暖水の前線域では濃密な漁場が形成される。この記述に基づいて、10月の水温分布と推定される漁場を下図に示しておく。詳しくは、水産海洋学入門を読んでほしい。



Last modified: Sunday, 29 March 2020, 8:00 AM