方法

格子網(ロープ・グリッド) 高強度ポリエチレン製(ダイニーマ)のロープにより,2.25 m x 2.25 m サイズの格子網を製作した。格子目のサイズは20 x 20 cm, 40 x 20 cm, 25 x 25 cmの3種類とした。

実験方法 対象とした定置網は二段箱式落網で,箱網は長さ30m×幅12m×高さ12mであり網が水面にあるために漁獲物が逃げないように箱網には天井網が付いている。箱網入口の大きさは縦横共に2.25mで,この箱網入口に格子網を装着した。また,格子網全体を箱網内から観察出来る様に水中カメラを箱網内に装着し,朝の網起し時から日没までの時間を撮影した。


解析方法 水中カメラの映像から,アザラシとサケの格子網に対する行動を観察し,アザラシの防除率とサケの忌避率を各格子網ごとに次のように求めた。


また,アザラシが出現することによるサケの漁獲への影響を調べるために,映像をもとに30分ごとのサケの出現確率(出現すれば1,しなければ0)とアザラシの出現回数についてロジスティック分析を行った。


結果
格子網の効果 以下の写真は,アザラシが格子網に網への侵入を阻まれる様子を示している。


3種類の格子網の内,20 x 20cmの格子網は,観測期間中に映像中に出現した全てのアザラシを防除した。一方,サケの忌避率も他の格子網と比較して高くなった。しかし,実験期間を通じて格子間隔20×20cmの格子網を装着している場合の方がその他の格子網を装着している場合と比較して漁獲量が多く有意な差が認められた。




ロジスティック分析の結果,サケの出現確率へのアザラシの出現回数の影響は有意であった。すなわち,アザラシの出現が結果的にサケの入網を忌避させていることを示している。このことから,食害などの直接的な影響だけでなく,アザラシの網への来遊によってサケの入網自体が減少するという間接的な被害も生じていると考えられた。
また,格子網ごとの1時間あたりのアザラシの平均出現個体数は,格子間隔20×20 cmの格子網を装着した場合に最も少なかった。すなわち,網への侵入を阻止されることをアザラシが学習した結果,この網への出現頻度が減少していたことが考えられる。


格子網の装着は,容易に網に侵入できない状況を作り出し,アザラシに網への来遊によるベネフィットが得られないことを学習させるものと思われる。スウェーデンにおける研究(Lunneryd, 2003)においても,アザラシが網に入ることにより得る報酬を最小限に抑えることで,彼らが来遊する意欲を失わせることが重要としている。

格子網の装着は,サケの入網を妨げる可能性があるものの,装着によって箱網内のサケは食害を受けることがなくなるだけでなく,上記のようにアザラシの来遊頻度が減ることにより,アザラシによってサケの来遊頻度が低くなるという見えない間接的被害の減少も期待できる。

なお,現在,この対策は環境省の「えりも地域ゼニガタアザラシ管理事業実施計画」の中に含まれており,継続して試験が行われている。また,当該地域では,定置網漁業における格子網の利用が普及してきている。


参考文献

Lunneryd, S. G., Fjalling, A., Westerberg, H. 2003. A large-mesh salmon trap: a way of mitigating sealimpact on a coastal fishery. ICES Journal of Marine Science, 60: 1194-1199.

Fujimori, Y., Ochi, Y., Yamasaki, S., Ito, R., Kobayashi, Y., Yamamoto, J., Tamaru, O., Kuramoto, Y., Sakurai, Y. 2018. Optical and acoustic camera observations of the behavior of the Kuril harbor seal Phoca vitulina stejnegeri after invading a salmon setnet. Fishereis Science, 84: 953–961.

Kuramoto, Y., Fujimori, Y., Ito, R., Kobayashi, Y., Sakurai, Y. 2021. Measures for co-existence between seals and coastal large-scale salmon set net fisheries: Mitigation of catch damage by the use of rope grid. Fishereis Reserch, 242. 



Terakhir diubah: Senin, 5 Februari 2024, 11:09