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漁具の選択性は,例えば,網漁具であれば網目の大きさ,アナゴなどを漁獲する筒であれば水抜き孔の大きさ,など対象生物の通過する箇所のサイズと対象生物のサイズとの関係から生じます。刺網であれば,網目内周よりも対象個体の胴周長が小さければ通過できますが,一致する個体は網目により保持され漁獲されます。また,胴周長が網目内周よりも過渡に大きければ保持されません。そのため,刺網の選択性はあるサイズを中心とした上に凸の釣り鐘型の曲線を描きます。一方,トロール網の場合は,網目内周よりも胴周長が大きい個体は網の中に保持(漁獲)されるので,あるサイズ以上の個体の保持率は100%となるS字型の曲線(シグモイド・カーブ)となります。
選択性は,資源管理のための商業漁具の目合の決定や資源のモニタリングにおいて対象資源の組成を知るための調査漁具の仕様を決めるうえで必要な情報です。しかし,1990年代以降の漁具選択性の研究は,主として混獲と投棄の削減を目的とした種やサイズに対する選択漁獲の実現を目指し,漁具の網目の選択性に加えて混獲防除装置(BRDs: Bycatch Reduction Devices)の能力評価という点で広く行われるようになりました。特に世界的にも多くの地域で使用され,漁法上混獲が生じやすい曳網漁具(トロール漁具)を対象とした研究事例はたいへん多く,1990年代から2000年代にかけて曳網漁具における種やサイズに対する選択性の研究は急速に進展しました。これらの研究により選択漁獲技術は大きく成熟しましたが,一方,幼稚魚保護のための単純な大型個体の間引きが対象資源の構造や生態に与える影響が指摘されるようになり,2000年代後半から選択漁獲の影響評価を試みる研究も見られるようになっています。
ここでは,選択性の原理と推定法を解説するとともに,近年の混獲防止装置の選択性についても研究事例を交えながら説明していきます。