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  • はじめに

     ソウハチCleisthenes pinetorumは,サハリン,北海道沿岸のほか,太平洋側では千島列島から福島県,日本海側では沿海地方から東シナ海北部まで広く分布する異体類である。北海道沿岸においては,えりも岬以西の太平洋海域において重要な漁獲対象種であり,噴火湾周辺海域では水深10~250mに分布している。北海道周辺に分布しているソウハチの産卵盛期は6月から9月までの夏季であり,最大体長は45cmとなる。

     ソウハチには形態的に他のカレイと比べて大きく異なる特徴があり,左目が頭の上部にあり(下図左),無眼側(下図右)からも見える。また,行動的な特徴として,底層魚であるが餌を追って中層や水面まで群れで泳ぐ。


     ソウハチの餌生物は主にスケトウダラGadus chalcogrammus稚魚,オキアミ類,端脚類などであり,特にスケトウダラ稚魚の捕食割合が高いといわれている。

     一方,スケトウダラは,日本のTAC対象種に指定されている重要な水産資源の一つである。 北海道周辺で漁獲されているスケトウダラは,北部日本海系群,北見沖合系群,根室海峡系群,太平洋系群の4系群に分類される。 このうち太平洋系群の主産卵場は北海道の噴火湾湾口部であり,この海域のスケトウダラの産卵期は12~3月で,盛期は1~2月である。 

     このようなスケトウダラ資源の加入量を推定するために,近年,スケトウダラ稚魚の量や分布を調べるのに計量魚群探知機(以下,計量魚探機とする)が使われ始めている。そこでスケトウダラ稚魚とそれを捕食するソウハチを区別するために,それぞれの種の音響散乱特性を明らかにし,音響的に分別する必要がある。

  • ソウハチの音響散乱特性

     ソウハチが釣れた地点のエコーグラムの例を下記の図に示す。上から順に周波数38,120,200 kHz のエコーグラムを表している。横軸は時間,縦軸は深度である。エコーグラムで,深度50 m 前後にパッチ状に分布している(図中赤で囲んだ反応)のがソウハチ魚群であり,3 周波数いずれにおいても確認できる。三つの周波数でパッチ状のエコーを比較すると,高周波数になるほどエコーが強くなる傾向が見られた。


  • スケトウダラ稚魚の音響散乱特性

    ソウハチの探索を行いながら,同時にスケトウダラ稚魚の探索も行い,スケトウダラ稚魚と思われる反応を見つけたところで,FMT(フレーム型中層トロール)の水平曳網を行った。FMT 曳網時のエコーグラムを下の図に示す。上から順に38,120,200 kHz のエコーグラムである。横軸は時間,縦軸は深度である。また,黒い矢印はFMT の曳網深度を表している。トロールを行った深度には層状反応が現れており,3 周波数ともその反射強度が強く,FMTの採取結果よりこれらはスケトウダラ稚魚の魚群であった。また,3周波数で層状のエコーを比較してみると,高周波数になるほど反射が弱くなる傾向が見られた。



  • 両種の音響判別

     ソウハチとスケトウダラ稚魚のエコーグラムを比較すると,ソウハチのエコーはパッチ状で,スケトウダラ稚魚のエコーは層状になっていた。従って,エコーの形状のみでもソウハチとスケトウダラ稚魚の判別が可能と考えられる。

     また,その反射の強さやその周波数特性を比較し,自動的に判別する方法も提案した。発表した論文(https://doi.org/10.1016/j.fishres.2019.105434)に詳細が記載されているので,是非ご覧ください。

  • 参考文献

    1) 北日本海洋センター.新北のさかなたち.2003;250-253.

    2) 北海道立総合研究機構水産研究本部.北海道水産資源管理マニュアル.2016;20.

    3) 水産庁・水産総合研究センター.平成23年度資源変動要因分析調査報告書.2012;1(11):55-59.

    4) 水産庁・水産総合研究センター.平成25年度魚種別系群別資源評価(52魚種84系群).2013. http://abchan.job.affrc.go.jp/digests25/index.html

    5) 前田辰昭,高橋豊美,上野元一.噴火湾周辺海域におけるスケトウダラ成魚群の生活年周期.日本水産学会誌.1981;47:741-746.

    6) 志田修.スケトウダラ太平洋系群の資源変動におよぼす成魚期の海洋環境の影響に関する研究.北海道水産試験場研究報告.2011;79:1-75.

    7) 中谷敏邦,前田辰昭.噴火湾およびその周辺海域におけるスケトウダラ稚魚の分布と移動.日本水産学会誌.1987;53:1585-1591.

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       海洋資源科学科