Topic outline
概要
シロザケ(Oncorhynchus keta)は我が国の重要な水産資源です。その資源を維持・増大させるため、北海道・東北ではふ化放流事業が盛んに行われています。しかし、近年その回帰数は低迷しています。シロザケ資源を持続的に利用していくには、その減耗のメカニズムを理解する必要があります。
シロザケの生活史
シロザケは秋〜冬に淡水で産まれ、冬期間を河川で過ごした後、春に海へ下ります。海に下った稚魚はオホーツク海に移動し、夏に索餌して成長します。そして、さらにアラスカ湾やベーリング海へ回遊し、十分に成長すると成熟のスイッチが入り、日本へと回帰します。シロザケでは稚魚の100%が1年目の春に海に下りますが、海洋生活は2年、3年、4年などと異なるため回帰する年齢がばらけます。このような本種の生活史パターンと減耗が大きい生活史ステージを明らかにすることは重要です。
シロザケの減耗を説明する成長仮説
これまでのサケ・マスに関する資源学的な研究により、海に下った稚幼魚の90%以上が海洋生活1年目の冬までに90%以上が減耗すると言われています。稚幼魚が減耗するか生き残るかは沿岸を離れるまでに一定のサイズに達することができるかが重要とされています。小さいサイズの魚は遊泳能力に劣るため捕食されたり、索餌海域に移動するまでに体力を消耗してしまうと考えられます。さらに、冬は餌が少ないため、エネルギーを十分蓄積できなかった個体は死んでしまうという臨界期・臨界成長仮説が立てられています。
シロザケの成長を測定するには?
以上のように、シロザケの資源の動向を把握するには河川−河口ー沿岸ー沖合と移動する過程の稚幼魚の成長を測定することが重要です。しかし、どのように測定したらよいのでしょうか?一番確実な方法は、個体を標識して一定期間の後に再び捕獲してサイズの変化を見る方法です。しかし、野外に放流した魚を再捕することは非常に困難です。そのため、間接的に魚の成長を測定する方法が一般に取られています。耳石や鱗はそれぞれの輪紋が成長や生息環境を記録されており、過去の成長履歴を再構築する上で有用です。また、筋肉中のリボゾームRNA量は蛋白合成の度合い、すなわち筋成長を反映しているとされ、一定細胞(DNA)あたりの比(RNA/DNA比)は、現在もしくは直近の成長の指標として用いられています。私たちの研究グループは、成長を司るホルモンであるインスリン様成長因子(IGF)-Iに着目し、これを現在もしくは直近の成長指標とすることを試みています。