海洋末端氷河では,氷河中を融解水が流れ,氷河末端の底付近から放出される。この融解水は淡水であるため,密度が軽く,湧昇を発生させる。その湧昇により,底層の栄養塩と懸濁物が有光層内に運ばれるため,栄養塩を利用して植物プランクトンが増殖し,一次生産が増加する(Arendt et al., 2013;Juul-Pedersen et al., 2015;Meire et al., 2017; Kanna et al., 2018)。
一方,陸末端氷河では,氷河上で溶け出した淡水は氷河から陸地上を通り,海へと流れ込む。融解水の密度は低く,海氷面を覆うように広がるため,湧昇は起こらず,結果的に一次生産は低い(Meire et al., 2017; Middelbo et al.,2018)。
このように,氷河のタイプによって,海洋環境や一次生産に与える影響は大きく異なる。
◇ 海洋末端氷河でのプランクトン調査
グリーンランド全体では,マイクロプランクトンに関する研究は比較的多い。たとえば,南東部のディスコ湾(Nielsen and Hansen, 1995; Levinsen et al.,1999; Levinsen et al., 2000),北東部のヤングサウンド(Rysgaard et al., 1999;Rysgaard and Nielsen, 2006; Krawczyk et al., 2015),南部のゴッドホープフィヨルド(Arendt et al., 2010; Calbet et al., 2011)で報告がある。しかし,グリーンランド北西部では未だ調査が行われていない。さらに,氷河融解水の流入による影響は近年とくに注目されており,バクテリア生産(Paulsen et al., 2017),一次生産(Arendt et al., 2013; Juul-Pedersen et al., 2015; Meire et al., 2017),動物プランクトン(Arendt et al., 2016)については研究例があるが,マイクロプランクトンへの影響は報告例がない。そこで,グリーンランド北東部にあるイングレフィールドブレドニングフィヨルドとボードウィンフィヨルド(いずれも海洋末端氷河)でマイクロプランクトンおよび動物プランクトンの調査を実施し,氷河融解水による影響を評価することにした。
◇ マイクロプランクトン群集
2018 年8 月のイングレフィールドブレドニングフィヨルドにおけるマイクロプランクトン群集では,渦鞭毛藻類と原生動物プランクトンである少毛類が優占していた(図7.4)。