ナビゲーション
前のコース:プランクトン←|目次|→次のコース:太平洋側北極海の海洋環境とプランクトン
北極海で海氷がなくなると,海はどう変わるのであろうか? 海氷は比重が小さいので海の表面に浮く。海氷があると,海はふたをされていると考えることができる。逆に,海氷が溶けるということは,ふたがなくなることを意味する。
海氷が消失するときの変化として,まず,太陽光が海中に届くようになる(図1.9)。そして,海水面は大気や日射によって暖められやすくなる。溶け残っている海氷は風で動きやすくなり,海氷が溶け切ってしまうと海が風によってかき混ぜられやすくなる。つまり,海氷が海の表面を覆っているときに比べて,溶けた状態で,大気や太陽光が海に対してより直接的に影響する。そして,そこに棲む生物の環境を変えることにつながる。
図1.9 海氷のあるときと溶けてしまった後との違い。海氷の融解後は太陽光や大気が直接的に海へ影響を与える。
◇植物プランクトンへの影響
まず,植物プランクトンへの影響を考えてみる。海氷が消失し,水中に届く光の量が増えると,その分,植物プランクトンが光合成をできるので,一次生産量(光合成によって同化される炭素の量)は増えると推定される。しかし,光合成には,光だけでなく栄養塩(硝酸態窒素,リン酸塩,ケイ酸塩)も必要であり,光の量が増えたからといって光合成量が増加すると一概には言えない。たとえば,夏の北極海の表層は,ほとんど栄養塩がないために一次生産は低いことが知られている。
さらに,海氷が消失したことによる環境の変化は,水温や鉛直混合にまで変化をもたらし,それらが複雑に関連し合いながら,植物プランクトンへ影響を与える(図1.10)。
図1.10 海氷の融解にともなう環境変化が植物プランクトンおよび動物プランクトンへ与える影響の概念図。赤い矢印は環境要因間の関係,青い矢印は植物プランクトンとの関係,黒い矢印は動物プランクトンとの関係を示す。複雑に環境変化が起こるため,プランクトンに起こる変化を単純に理解することは困難である。
◇動物プランクトンへの影響
次に,動物プランクトンについて考える。環境からの直接的な影響としては,たとえば,水温が上がると動物プランクトンの呼吸量が上がるため,生きていくのに必要なエネルギーが増える。また,多くの動物プランクトンが,昼は深い層にいて,夜間に表層へ移動する日周鉛直移動を行うため,光は動物プランクトンの鉛直的な分布に影響すると考えられる。
そして,植物プランクトンの変化の影響も受ける。動物プランクトンの餌である植物プランクトンが増えれば,得られるエネルギー量が増え,多くの子供を残すことができ,結果的に個体数が増えるかもしれない。
このように,海氷の消失によってプランクトンに起こるであろう変化は複雑で,理解を深めるためには根気よく調査や実験を繰り返す必要がある。