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マルチプルコアラー
北海道大学水産学部おしょろ丸海洋調査部 今井圭理、小熊健治、澤田光希
マルチプルコアラーは柱状採泥器の一種で、あたかも海底の様子をそのまま切り取って船上に持ち帰ってきたかのような試料を得ることができます。
海水中には生物の遺骸や排泄物、微生物が凝集してできた粒子などが漂っており、これらは浮力を失うと徐々に沈降していき、やがて海の底へと降り積もります。粒子が海底に堆積する現象は海水中から物質が除去される作用と同様に考えられ、反対に堆積した物質の一部が分解作用を受けて再び海水中に放出されます。こうした海水と堆積物との物質のやりとりの様子(海水-堆積物間相互作用)を明らかにすることは、海洋における物質循環の仕組みを解明するうえで必要不可欠となります。ところが、海底の表面に降り積もった物質の層は非常に柔らかく、わずかな力が加わっただけでその構造が乱されてしまいます。そこで、採泥管をゆっくりと堆積物へ貫入させる機構を備えたマルチプルコアラーは境界面を乱さずに堆積物とその直上の海水を採取することのできる採集具として現代の海洋研究に欠かせない存在となっています。また、海底の表層に生息する生物をその生息場所と併せて採取できることから、底生生物の生態に関する研究にも利用されています。
本コースでは、マルチプルコアラーの機器構成や仕組み、また実際の採泥作業について詳しく説明します。
図1 マルチプルコアラー
図2 採取された試料
船上の気温よりも低温な堆積物直上海水が採取されたので本来透明な採泥管が結露して曇っています。堆積物表層とその直上海水の境界がはっきりと確認できます。
1)採泥器の構成
マルチプルコアラーの概略図を図3に示します。やぐらのような形状をした金属パイプ製の枠(以下、「やぐら」)の内部に、「採泥管ユニット」を装着する「昇降部」が収められています。各部作動の詳細は後章に詳しく示します。昇降部には底質の硬さに合わせて重さを調節する重錘を取り付けることができます。一枚が12㎏の鉛製の板を左右2か所の取り付け部に均等になるように、最大で片側10枚を取り付けられます。
図4に「採泥管ユニット」の詳細を示します。「採泥管ユニット」は掛け金のついた金属製のリング(コアサポーター)を用いて「採泥管支持枠」(以下、「アーム」)に「採泥管」を固定したもので、最大8ユニットを昇降部に取り付けることができます。マルチプルコアラーの名前の由来はここで紹介した採泥管ユニットを複数本取り付けられることにあります。採泥管には、採取される堆積物および直上海水をはっきりと視認できるよう、ポリカーボネート製の透明な筒が用いられます。アームは昇降部に採泥管を取り付ける治具だけでなく、採泥管に蓋をする機構を備えています。
昇降部を支える金属パイプは中空のシリンダーパイプとピストンロッドで構成され、注射器のような構造をしています。採泥器が海底に到達して昇降部が降下する際に、シリンダー内に満たされている海水がピストンロッドの中の細管を通って押し出されます。この時、シリンダー内の海水の出口となる穴が小さいため、昇降部をゆっくりと降下させる水圧が生じます。この機構はハイドロリックダンパーと呼ばれ、マルチプルコアラーの特徴である攪乱の少ない採泥を実現させています(図5)。
図3 マルチプルコアラーの概略図と全体写真
図4 採泥管ユニットの構成
図5 ハイドロリックダンパーの仕組み
2)採泥の仕組み
マルチプルコアラーが堆積物を採取する際の作動の仕組みを、順を追って示したのが図6です。マルチプルコアラーを海底へと降下させると初めにやぐらが着底します(図6-①)。その後、採泥器を吊り下げていたワイヤロープが緩むと、重錘の重みとハイドロリックダンパーの作用によって昇降部がゆっくりと降下していき、採泥管が堆積物へと貫入します(図6-②)。ワイヤを巻き上げて昇降部を上昇させると上下の蓋を固定していたトリガが作動し、上蓋が閉じると同時に下蓋も解放されて海底面へ乗ります(図6-③)。さらにワイヤを巻き上げると採泥管が堆積物から引き抜かれ、それと共に採泥管の下蓋が閉じます(図6-④)。採泥管の上下を蓋で閉じることにより、採取された堆積物の落下を防ぐとともに、直上海水が他の海水や大気と接触する機会を減らすことができます。
図6 マルチプルコアラーを用いた採泥の仕組み
3)採泥作業の手順
1.観測準備
図7の通り組み立てた採泥管ユニットを、採泥器の昇降部に取り付けます。アームの上下の蓋を開いてトリガにセットします。採泥管ユニットの取り付けとトリガへのセットの様子を動画「採泥器ユニットの取り付け・セッティング方法」に示します。
図7 採泥管ユニットの組み立て方法
a)アームの下蓋を引き上げ、採泥管を挿し込みます。
b)コアサポーターの掛け金をアームにはめ込み、採泥管を固定します。
c)コアサポーターが脱落しないよう、掛け金にビニールテープを巻きます。
2.海中投入
クレーンで採泥器を吊り上げ、ウインチのワイヤを繰り出して海中へと投入します。この時、甲板上で昇降部が作動しないように取り付けてあるストッパー金具を取り外します。これらの作業中に船の動揺によって採泥器が空中で振れないよう、採泥器が海中に投入されるギリギリまでロープで抑えながら作業を行います。採泥器を50 mの深さに沈めたところで一度ウインチを停止し、ワイヤにピンガー※1を取り付けます。ワイヤの繰り出しを再開し、採泥器を海底まで降下させていきます。
3.着底
採泥器を海中に投入したら、図8に示す手順で採泥器を着底させます。水深と繰り出したワイヤの長さ、ピンガーの信号を頼りに、採泥器の水中高度(海底までの距離)を確認しながら毎秒1 mの速度でワイヤを繰り出します(図8-①)。採泥器が海底から50 mに達したら繰り出しを停止し、そのまま3分間待機して採泥器の姿勢を安定させます(図8-②)。待機後、低速(毎秒0.3 m)でワイヤの繰り出しを再開します(図8-③)。着底を確認してから30秒経過した後にウインチを停止します(図8-④)。テンションメーター※2でワイヤにかかる張力の低下を検出した時点を着底と判断します。着底後、採泥器の昇降部はワイヤが繰り出されている間、ハイドロリックダンパーが作動して海底に採泥管が降下、貫入していきます。底質が砂質であると採泥管が貫入し終えるまでの時間がさらにかかるのでウインチを停止した後に数十秒間待機することがあります。採泥管を引き抜く際には、着底させるときと同様に低速でワイヤを巻き上げます(図8-⑤)。ワイヤを巻き上げていくと徐々に張力が上昇していき、一定の張力が観測されるようになったところで採泥器の離底が確認できます。その後、巻き上げ速度を上げて速やかに採泥器を船上に回収します(図8-⑥)。
着底させる時に傾いた状態にならないよう、また着底した後に引きずられることのないよう、採泥器は船の真下にある状態にしなければなりません。従って、採泥器を降下させている間はもちろんのこと、着底してから離底するまでの間も、ワイヤが真下を向いた状態になるよう潮流等を考慮しながら操船します。図8 海底近くでのマルチプルコアラーの動作
※1 ピンガー
一定の間隔で音波信号を発信する音響機器で、海底高度(海底からピンガーまでの距離)の計測に用いられます。この機器を使用して採泥器と海底との距離を捉えることで安全・確実に採泥を行うことができます。
「リンク・・ピンガー」
※2 テンションメーター
ワイヤにかかる張力(重量)を計測する機器です。張力の増減を捉えることで採泥器の離着底を把握することができます。
海面上に採泥器があがってきたらクレーンで甲板上に移動させ、ストッパーを差し込んでから着地させます。採泥器への波の衝突や船の動揺によって、空中に吊り上げられた採泥器が大きく振れることがあるので、投入時と同様にロープでしっかりと抑えながら作業を行います。採泥器を船体に接触させたり、甲板上への着地に衝撃があると、採泥器の破損あるいは貴重な試料の損失につながります。
5.試料の回収
採泥器が揚収されたら、アームから採泥管を取り外します。この時、速やかに採泥管の上下に栓をして密閉します。作業には図9に示したゴム栓とヘラを用います。ゴム栓は使用する採泥管の内径に適合するサイズのものを選びます。まず、アームの下蓋と採泥管の間にヘラを差し込み、試料が漏れ出てこないようヘラを採泥管の下面に押し当てながら、アームの下蓋をあけます。次に採泥管の下面にゴム栓を押し当てた状態でヘラを引き抜き、ゴム栓を採泥管に押し込みます。そして、採泥管をアームから取り外した後、採泥管上面にもゴム栓をします。また、試料を持ち運ぶ際に上下のゴム栓が脱落しないようにビニールテープを巻いて固定します。これらの作業中、表層堆積物が巻き上がらないように慎重な作業が求められます。図9 (a)ゴム栓 (b)ヘラ
6.試料の処理
採取した堆積物試料(コア)は研究目的に応じた処理が施されます。採泥管そのものを用いて堆積物と直上海水の相互作用に関する実験が行われることもありますが、コアを1-数㎝単位に切り分け、堆積物表層における物質の鉛直分布を調べるために用いることもあります。ここでは「コア抜き器」(図10)を用いて採取したコアを層別に分配する方法を説明します。
コア抜き器は採泥管の内径に合わせたピストンを土台となる板の上に固定した器具です。ピストンによって少しずつ押し出したコアを層別に切り分けます。押し出すコアの厚さを正確に調整するためにアジャスタを備えたものもあります。図10にアジャスタ付きのコア抜き器を示します。このコア抜き器はピストンの軸の外側とアジャスタの内側にねじ山が作られていて、それらを噛み合わせた「ボルト」と「ナット」の関係にあります。なので、アジャスタを回転させるとアジャスタそのものがピストンの軸に沿って上下に移動できます。図10に紹介するコア抜き器の場合はアジャスタのハンドルを時計回りに回すと1回転あたり4 mm下方へ移動する間隔でねじ山が作られています。反対にハンドルを反時計回りに回せば同様の距離を上方へ移動します。つまり、このアジャスタのハンドルを時計回りに2.5回転して下がったアジャスタと共に採泥管を1㎝下方へ移動させると採泥管の上部から堆積物を1㎝押し出すことができます。図10 コア抜き器 (a)ピストン (b)アジャスタ
コア抜き器を使った試料の切り分けは図11に示す順序で行います。図11中の番号に順じてコア抜き作業を説明します。①、採泥管の下側のゴム栓を緩め、ゴム栓と採泥管の隙間にヘラを挿し込みます。②、採泥管の下をヘラで塞いだままピストンの上部に乗せてからヘラを抜き取ります。③、採泥管にピストンを押し込んだら、上側のゴム栓を取り外します。④、シリコンチューブやシリンジを用いて海水を抜き取ります。この海水を分取し、直上海水として分析に供することもあります。⑤、採泥管を押し下げると、ピストンによって堆積物が相対的に押し上げられます。堆積物表面が採泥管の上面と同じ位置に来るまで採泥管を押し下げます。⑥、ハンドルを反時計回りに回して、採泥管の下面までアジャスタを上昇させます。⑦、ハンドルを時計回りに回して、任意の長さの分だけアジャスタを降下させ、併せて採泥管を押し下げると採泥管の上部から任意の長さの試料が押し出されます。⑧、押し出した試料をヘラで切り取って容器に移しとります。堆積物を押し出しては切り取るという作業を繰り返し、堆積物表層から順に試料を切り分けていきます。
図11 コア抜き作業の手順
7.観測の記録
CTD観測などと同様に採泥においても試料採取時の船位や水深などの地理的な情報に加え、繰り出したワイヤの長さや採取された試料の概要、試料の分配、行先などを記録するのは研究・調査を行う上で最も基礎的なデータであり、重要な情報となります。そこで、採泥する際の作業記録に特化した観測野帳を用意する機関も少なくはありません。
図12に北海道大学「おしょろ丸」においてマルチプルコアラーを用いた採泥観測で使用されている観測野帳(Multiple Corer Sampling Log Sheet)に記入例として、ある架空の観測結果を記載したものを示します。ここでは「C000」次航海の2021年7月7日に観測点「St.3K」おいて2回の観測を行った場合を想定しています。観測の事前に観測地点名(Station)や日付(Date(UTC))、観測指示者/オペレーター(Operater)の名前を記入します。また、同じ点で何度も観測を行う際は観測作業そのものや採取された試料の取り扱いにおいて混乱しないように、観測作業に対して名称を定めます。それをサンプリング名(Sampling Name) の欄に記載します。また、左下の表面海水温、天候、時間帯の情報もあらかじめ記します。その後、観測作業が開始されたら開始時刻とその時点での船位の情報を記入します(Sampling Start)。観測が進んで、採泥器が着底した時の時刻、船位、水深、ワイヤ情報を記入します(Bottom touch)。採泥器が船に揚収された時にも同様な情報を記入します(Sampling End)。なお、採泥観測の際にワイヤが真っすぐ下に向かっていれば採泥器は船の真下にあると推測されるので、「Bottom touch」に記録した船位がそのまま採泥器が着底・採泥した海底の位置と推定されます。一方で、風や潮流によって船の位置が変化し開始位置(希望観測点)からずれてしまうことがあります。このこともこの観測野帳から後に確認することができます。
マルチプルコアラーは最大で8本のコアが採取されるのでそれぞれに番号(Core No.)を割り振り、どのような状態で採取されたかを記録します。まず、採泥管ユニットが正常に作動したかどうかを見ます。しっかりと上下の蓋が閉鎖し、採泥されていれば「Check」欄に「〇」、採取されたはずの堆積物が脱落したり直上海水が隙間から抜けてしまったりしてうまく採取できてなければ「×」とします。「Memo」の欄にはコアの様子(例えば、底生生物が採取されている、堆積物の色や直上海水が濁っているかどうかなど)、コアの利用方法や試料の行先などを記入します。さらに、「Remarks」の欄にはこの観測全般において特記事項を記録します。ここには再度同じ場所で観測をする時のために底質の情報を記録しておいてもよいでしょう。図12 マルチプルコアラー観測野帳(記入例)