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海氷の成長とブラインチャネル
海氷といっても,氷の結晶部分は真水なので,成長する際,海水中の溶存成分は結晶の外に排出される。追い出された塩は高塩分水として海氷の外部(海氷下の海水)に排出されるが,一部の塩は海氷内に高塩分水として残る。この高塩分水をブラインと呼ぶ。
ブラインは海氷内部に出来るブラインポケットに存在し,海氷の成長にともなって徐々に下方へ移動する。その際,ブラインの通り道が出来る。これをブラインチャネルと呼ぶ。ブラインチャネルは無数に存在し,海氷内部は微細な多孔質状になっている。海氷内のブラインの一部は,海氷の底面から抜けて海水中へ流れ出る。ブラインチャネルは,海水と海氷,大気をつなぐ道なのである。この道を,塩だけでなく,溶存ガス(二酸化炭素など)も通ることが最近の研究で明らかになりつつある。塩を含まない河川や湖沼で出来る氷は大気と水圏の間の遮蔽壁の役割を果たすが,海氷はブラインが物質輸送を担う点で大きく異なるのである。
海氷内に存在するブラインは,海氷研究において肝となるものであるが,液体状のブラインを海氷から取り出すことは非常に難しい。海氷を採取して遠心分離器を使用してブラインのみを取り出す方法もある。しかし,温度が上がったり,遠心力によって海氷内部の圧力が変化するなど,ブラインの状態が変わってしまう。そこで,苦肉の策として,海氷にゴルフカップのような穴をあけ,穴の底にブラインが溜まるのをじっと待つのである。分析に十分な量のブラインを集めるには,海氷の温度にもよるがおおよそ1 時間ほど待つ。温度が変わらないように,穴の上には断熱材を置く。溜まったブラインを注射器で吸い取り,サンプルのボトルに移し,研究室に持ち帰って,海氷のなかの溶存ガス濃度などを測定するのである。