Topic outline
中層性カラヌス目カイアシ類
Gaetanus variabilis
カイアシ類の生活史解析
- カイアシ類の生活史(いつ産まれていつ死ぬか)は、主に表層(0-200 m)に分布する種について知られています。
- 一方、中層(水深200-1000 m)に分布するカイアシ類の生活史に関する情報はほとんどありません。
- カイアシ類は他の甲殻類と同じく脱皮をして成長します。脱皮する毎に、体節や脚の数が増えていきますので、それらを観察すると、何の種の何期の発育段階かが分かります。
- 水深2000 mまでを層別に採集したプランクトンネット試料中に出現した中層性カイアシ類Gaetanus variabilisを発育段階毎に計数しました。
生活史の模式図はアメリカ海洋大気庁HP提供
上は釧路沖で優占するカイアシ類Eucalanus bungiiのノープリウス6期(N1~N6)、コペポダイト6期(C1~C6)を同一縮尺で示した写真です。プランクトンネットでは主にC1~C6が採集されます。C4~C6は形態により雌雄が分かれます。
中層性カイアシ類𝐺𝑎𝑒𝑡𝑎𝑛𝑢𝑠 𝑣𝑎𝑟𝑖𝑎𝑏𝑖𝑙𝑖𝑠の生活史(1)
Gaetanus variabilisは年間を通して、水深500-1000 m 一方、全発育段階の出現個体数には季節性があることが伺えました。
に分布していました。昼夜での分布深度の差も明確 調査に行った釧路沖(親潮域)では、表層にて、4月から6月にかけて明確な
ではありません。 植物プランクトンのブルームが起こりました。
中層性カイアシ類𝐺𝑎𝑒𝑡𝑎𝑛𝑢𝑠 𝑣𝑎𝑟𝑖𝑎𝑏𝑖𝑙𝑖𝑠の生活史(2)
- 発育段階毎の出現個体数を見ると、C1期は6月~8月に多いことが分かります。別途行った卵とノープリウスの飼育実験により、現場環境下では卵孵化およびノープリウスの発育に51日がかかることが明らかになりました。これらのことを考慮すると、本種の再生産(産卵)は表層でクロロフィルaの高い季節とほぼ一致することが明らかになりました。C1~C3までの成長は明確にトレースすることが出来ました。本種はC4以降は雌雄で発育時間が異なり、雌はC6(親成体)の状態で長く過ごします。雌が親成体の状態で長い時間を過ごすことは、表層から沈降する餌粒子の増加に応じて、速やかに産卵に移れる点で、有利な生活史戦略です。
中層性カイアシ類𝐺𝑎𝑒𝑡𝑎𝑛𝑢𝑠 𝑣𝑎𝑟𝑖𝑎𝑏𝑖𝑙𝑖𝑠の消化管内容物
水深600-700 mから採集された雌成体の消化管内容物は、主に表層由来の沈降粒子により占められていた。
カイアシ類の消化管内容物観察方法
消化管内容物は脱塩後、フィルターで濾過して脱水、金でコーティングした後に電子顕微鏡で観察します。
鉛直的な沈降粒子輸送とカイアシ類の摂餌および排泄
- 水深0-4000 m層に落ちてきた沈降粒子は、8つの各水深層で、3つの経路を経ます。1つは直接沈降(下方向の矢印)、2つめはカイアシ類による消費(左矢印)、3つめは微生物による分解消費(右矢印)です。水深0-4000 m水中を通して、沈降粒子の平均32%がカイアシ類によって摂餌消費されることが明らかになりました。
まとめ
- 水深500-1000 mに分布する粒子食性カイアシ類の生活史には明確な季節性があり、その主要産卵期は表層で植物プランクトンブルーム(大増殖)がある季節に一致していた。
- 深海性種の主産卵期が表層の植物プランクトンブルームと一致していたのは、深海への沈降粒子供給量が、表層の植物プランクトンブルーム期に多いことの反映と考えられた。
- 今回対象とした深海性種(Gaetanus variabilis)は雌雄で発育速度が異なり、雌は親成体の状態で長い時間を過ごしていた。
- 雌が親成体の状態で長い時間を過ごすのは、表層からの沈降粒子増加に応じて、速やかに再生産に移れる点で有利な生活史戦略であると考えられる。
- 西部北太平洋亜寒帯域において、カラヌス目カイアシ類は水柱内の沈降粒子の32%を消費すると推定された。