クリーンテクニック -コンタミネーションとの闘い(その1)
どの分野の海洋学者も船に乗る前の準備はそれなりに大変だ。微量金属を研究する海洋学者は乗船前に多くの洗い物に苦労する。海水中の金属の濃度が極めて低いため、現在でもなかなか簡単には分析できない。採水器一つをとっても、内部をテフロンコートし、Oリングなどは特殊な材質に交換し、それを塩酸と超純水でしっかり洗う。海水の保存容器もクリーンにこだわる。容器の材質は高純度のプラスチック製で、新品であれば良いってわけじゃない。新品のプラスチック瓶を、アルカリ洗剤で浸け置き洗い、濃硝酸→超純水で熱をかけながら洗う。各洗いの工程では、超純水での7回濯ぎが待っている。こうして、ようやく、海の微量金属を測る準備が整うのである。このため海洋の微量金属の研究者は、長期航海の前は数か月もクリーンルームの中に閉じこもり、洗い物を延々と続けて、やっと海に出るのである。一般に海洋学でクリーンテクニックと呼ばれている操作の大部分は、過去の失敗の経験に基づいた、職人的な洗いの技術なのである。その洗いのレシピに忠実に従うのが基本である。海洋の微量金属の研究者は、未知なる海の魅力に取りつかれ、せっせとまたクリーンルームで作業するのである。この苦労を乗り越えて、研究者たちは出港の日を迎える。出港までに準備を間に合わせた充足感と、これから始まる航海での大きな発見への期待が重なって、我々はワクワクしながら海に繰り出してゆく。(低温科学研究所・西岡)
(授業用資料を、西岡先生より提供いただいたときのコラムを、大木が転載しました)