海底のヨードエタンの謎
ヨードエタンの謎に至る経過を、以下、長々説明しています。
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海底の堆積物では、ヨードエタンが圧倒的な主役に躍り出るナゾ!
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下の絵は、地球表層でのヨウ素の物質循環を表しています。大気と海洋が接する場所に「org-I」があります。これは、organic iodine (有機ヨウ素)を表しています。海から大気へ揮発する有機ヨウ素は、有機ヨウ素ガスです。海洋由来の有機ヨウ素ガスは、大気にヨウ素原子を供給する重要な役割を果たしています。そのため、古くから、大気や海洋表層の有機ヨウ素ガスが調べられてきました。
上の絵では、海洋堆積物層にも、org-I(気)や、org-I(固)が記されています。ヨウ素を豊富に含む海洋植物が死んで、その有機物が海底に堆積すれば、海底堆積物中にヨウ素が蓄積すると思われます。千葉県の太平洋沿岸地域では、地下深くのメタンガス層の潅水に高濃度のヨウ素が蓄積しています。その蓄積理由として、昔、ヨウ素を含む海洋植物が多量に堆積した結果と考えられています。有機物豊富な堆積物中のヨウ素なので、ある部分は有機ヨウ素(org-I)と思われます。そのため、上の図では、想像も含めて、org-I(固)を記しました。
堆積物中の有機ヨウ素ガス(org-I(気))の存在を調べているのは、世界でも、私たちの研究室だけです。(2018年から始めました) まだ、論文として研究成果が発表されていませんが、その背景を紹介したいと思います。
2012年9月に、JAMSTEC研究船みらいで、北極海の陸棚域(チャクチ海)で海洋観測を行いました。私たちの研究室では、下の観測地点で海水を鉛直的(表面から陸棚の海底直上)に採取して、海水中の有機ヨウ素ガス(org-I)の濃度を測定しました。
Biogeosciences, 13, 133–145, 2016, www.biogeosciences.net/13/133/2016/doi:10.5194/bg-13-133-2016, © Author(s) 2016. CC Attribution 3.0 license
下に、北極海チャクチ海の陸棚から、海盆域(北極点のほう)で有機ヨウ素ガス種の濃度の鉛直分布を示します。縦軸が水深で、横軸が各成分の濃度です。表面付近では低濃度ですが、水深50~100 mの海底面深度付近で高濃度になっていることがわかりました。
そのため、「海洋堆積物中で有機ヨウ素ガス種が発生しているのでは?」と思うようになったのです。
2012年のJAMSTECみらい航海で、有機ヨウ素ガス種の発生に関して海底堆積物が怪しい! と思ったので、北大水産学部の練習船航海で、それを確かめようと北海道噴火湾で観測をつづけました(下図の場所)。
J Atmos Chem, Shimizu et al, DOI 10.1007/s10874-016-9352-6 の責任著者が私(大木)なので、著作権者として図を再利用します。
北海道噴火湾(海底深96 m)における、ヨードエタン(下図の左)とリン酸塩(下図の右)の鉛直分布の季節変化を示します。噴火湾では、春(3月)に珪藻の大増殖が起こるのですが、そのあと、5~6月に海底付近でヨードエタンが急に増えることを発見しました。
やっぱり、海底付近が怪しすぎる! これまで海底堆積物を採取する観測をやったことがなかったので、二の足を踏んでいたのですが、これは、直接堆積物を調べなければ、と思いました。
北極海や噴火湾で海底堆積物を採取して、その堆積物表面(海水と接触する層)の間隙水(含まれる水)を搾り取りました。その間隙水中の有機ヨウ素ガス種の濃度を測ったのです。これで、大気、海水、堆積物に含まれる有機ヨウ素ガスの成分濃度を知ることができました。その平均的な結果を下の表にまとめました。
大気ではヨードメタン(CH3I)がメジャー成分(下の表の一番左の成分)です。大気中で比較的安定に存在するためです。海水中でも、メジャー成分になることがあります。海水中では、ジヨードメタン(CH2I2)もメジャーに躍り出ることがあります。(このことも大きな謎です) 大気でも、海水でも、いつも、一番マイナーな成分がヨードエタン(C2H5I)です(下の表の左2番目の成分)。しかし、堆積物では、ヨードエタンがいつでも、圧倒的なメジャー成分になることを発見しました。これは、ヨウ素循環を理解するうえで、大きな謎だと思います。現在、その謎を解くために、堆積物に降り積もる有機物を培養する実験で検証中です。近々、論文にする予定です。
噴火湾の珪藻ブルーム時に、ノルパックネットで植物プランクトンを集めました。
珪藻有機物を分解培養して、ヨードエタンの発生を確かめています。3日後くらいから、急に増える様子が捉えられています。
(修士課程2年の孟君が実験をやっています)
北大水産学部練習船のおしょろ丸やうしお丸の航海で、海底堆積物を採取する観測を始めました。下に、その様子を撮影した動画へのリンクを貼りました。
おしょろ丸でマルチプルコア観測で海底堆積物を採取する際の動画です。ご覧ください。