植物の光合成を制限する要因(陸上と海洋を比較)
植物が光合成して有機物を蓄える(一次生産)には、光と水、二酸化炭素、栄養成分が必要です。その植物に適した温度帯であることも必要です。
陸上植物の一次生産量を制限する主要因は水です。水が不足している砂漠は、植物があまり育っていませんよね。もちろん、根から吸収する栄養成分が欠かせませんが、植物が成長して葉っぱが枯れて落ちても、比較的栄養塩は再利用できる環境にあります。
海洋の植物も、光と水、二酸化炭素と栄養成分が必要です。海で一次生産が起こるのは、光が届く表層のみになります。水と二酸化炭素は、十分あります。植物が光合成により成長するときには、栄養成分も取り込みます。海では、植物(主にプランクトン)が死ぬと、表層から深層へ有機物が運ばれてしまいます。そして、深いところで有機物が分解して、栄養成分が海水に戻ります。したがって、海の表層では栄養成分が枯渇しがちになります。そのため、海洋の一次生産を制限する主要因は栄養成分になるのです。
下は、人工衛星で海の色を調べて、光合成色素のクロロフィル濃度の分布を示した図です。緑や赤色のところで、植物プランクトンが多く存在しています。つまり、一次生産量の多い場所になります。一目瞭然なのが、亜熱帯で植物プランクトンが著しく、亜寒帯で多いことです。なぜでしょうか。
クロロフィル(植物プランクトン量の指標)の分布は、海洋表層のリン酸塩(栄養成分の一種)の分布(下の図)と似ています。亜熱帯表層でリン酸塩が少なく、亜寒帯で多いのです。つまり、表層の栄養成分の高い(低い)ところで、植物プランクトンが多い(少ない)のです。
まず初めに、海洋の深いところには、栄養成分が沢山溜まっていることを知ってください。これは、先ほど述べたように、表層で生産された有機物が深い方へ沈降し、深いところの海水に栄養成分が再生するからです。
では、なぜ、亜熱帯表層で栄養成分が少なく、亜寒帯で多いのでしょうか。これは、海洋表層の水の鉛直混合の様子が、亜熱帯と亜寒帯で違うからです。亜熱帯は日射が強く、表面の水が温められます。暖かい水が表面を覆っているので、深いところの栄養豊富な水が表面にもたらされにくいのです。亜寒帯の冬場は寒く、著しく、水が冷やされます。深いところの栄養豊富な水が表面までもたらされやすいのです。亜寒帯と亜熱帯の中間は、冬場の冷却も著しいのですが、それに加えて、水がぶつかり合うことで生じる渦により鉛直混合が発達することもあります。そのため、亜寒帯や中間域(混合域)で一次生産性が高くなるのです。
どのような海域で、どの時期に、どれくらい一次生産が起こり、何が要因で、一次生産が制限されるのか? また、一次生産(有機物生産)とともに、様々な物質が有機物と共に海洋を移動します。これを物質循環といいます。一次生産や海洋物質循環を、”化学物質”を追うことで調べるのが、海洋化学です。
海洋化学では、海水を採取して、分析して解析するのが王道です。下の動画のような観測を毎月のように行っています。