外洋の環境DNA
教育プログラム企画推進室・バランスドオーシャン運用部・安です
※安先生は2023年3月に北海道大学を退職されました。
教育プログラム企画推進室・バランスドオーシャン運用部・安です
※安先生は2023年3月に北海道大学を退職されました。
環境DNAは環境中に存在する生物由来のDNAのことです。
環境DNA法は生き物を直接傷つけず、土や水などを採集することで生物調査ができる利点を持ち、注目されています。
環境DNA法は生物を網羅的に調べる新しく便利な技術ではありますが、その研究事例は河川や沿岸域に偏っており、外洋域での研究は少ないのが現状です。
外洋は河川や沿岸域に比べて次元が全然違い、生物密度も低いのでDNAの検出確率が下がります(淺野、2019、卒業論文)。
しかし海洋資源や生物多様性を調べるにあたって、外洋域の調査は欠かせません。
外洋域での検出率の向上のため、採水量を増やすなどの試みがありました。
外洋域での採水には研究船など船が必要です。
船上での採水・濾過方法をご紹介します。
船上で大量の水を採水する方法は二つあります。
1 採水器を利用する方法:特定の深度の採水ができます。
またCTDを採水器と一緒に沈めることで環境データの収集が同時にできます。
2 研究用海水を採る:船内の蛇口から、船のポンプで汲み取っている表層水が出ます。
(出ない船もあるのでご注意!)
採水した水は船上で速やかに濾過、あるいはBAC(塩化ベンザルコニウム)を入れて研究室に持ち帰ります。
上の動画で紹介した方法で外洋(恵山沖)の表層水を採水し、10Lのタンクに均等に入るようにしました。
そして以下の6つの実験区を設けて、環境DNA検出率向上実験を行いました。
本研究では、外洋の水が河川・沿岸と違って浮遊物などが少なく、水中の環境DNAがフィルターを通過してしまう可能性に着目し、DNAが吸着してフィルターに残るよう人為的に添加物を入れました。
添加物は、自然界で一般的にみられる砂、吸水力があると知られている珪藻土、既に環境DNAの検出率向上実験で使われたジルコニアビーズ、そしてガスクロマトグラフィーに使われているモレキュラーシーブを用いました。また、0.22 um pore sizeのフィルターを用意し、0.45 umのフィルターと比較しました。
全ての実験区は2Lを濾過したフィルター X 5反復で実施しました。
実験は夏と冬に2回実施し、季節により異なる結果となりました。
夏は珪藻土を添加したExp4、冬はジルコニアビーズを添加したExp5で最も多い種数が検出されました。
夏と冬のデータをあわせて一般化線形モデルで解析した結果、添加物はいずれも種数に有意な影響を及ぼしました。
一方で、0.22umのフィルターは 0.45umのフィルターに比べて有意な差が認められませんでした。
本研究は、公益財団法人ヒロセ財団、公益財団法人前川報恩会からご支援いただきました。