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水産学部の専門授業「海洋生物地球化学」にて、福島大学環境放射能研究所の高田兵衛先生を外部講師として招聘します。高田先生に講義をお願いする環境放射能学の内容一部をLASBOS Moodleのコースに提供してもらいました。
水産学部の専門授業「海洋生物地球化学」にて、福島大学環境放射能研究所の高田兵衛先生を外部講師として招聘します。高田先生に講義をお願いする環境放射能学の内容一部をLASBOS Moodleのコースに提供してもらいました。
以下に説明するウランやトリウムは、地殻中に存在する元素です。それが、河川水などに溶けて流れて海に供給されます。もしくは、地殻中で放射壊変して気体のラドンになり、大気へ出てゆきます。ウランやトリウムの放射壊変により生ずる、核種の仲間(ウランの放射壊変系列やトリウムの放射壊変系列)の説明をします。
【ウラン系列の説明】
ウラン系列の親である、ウラン238 (238U)は海水に均一に存在しており、その濃度は3マイクロ(10-6)グラム/リットルで存在しています。これをベクレルで表すと、0.04 ベクレル(Bq / リットル ) という濃度になります。例えば大気圏内核実験や福島第一原発事故で大量に放出された放射性セシウムのセシウム137( 137Cs) の日本沿岸海水中の濃度は、0.001~0.003 Bq/リットル ですので、ウラン238 (238U)の方が濃度は高いことになります。
その後ウラン238 (238U)はアルファ崩壊(それぞれ2個の陽子と中性子を吐き出す)しながら、娘核種として、トリウム234 (234Th)やラジウム226 (226Ra)やラドン222 (222Rn)になりながら、最終的に安定核種の鉛206(206Pb)になります。
【トリウム系列の説明】
親核種であるトリウム232 (232Th)は、ウラン238(238U)と異なり、海水には非常に溶けにくい性質をもっているので、その海水中濃度は約0.3ナノ(10-9)グラム/リットル と低い濃度で存在します。これをベクレルで表すと、0.0000012 ベクレル(Bq)/リットル という非常に少ない量になります。
その後、トリウム232 (232Th)はウラン238 (238U)と同じようにアルファ崩壊しながら、ラジウム228 (228Ra)やラドン212 (212Rn)になりながら、最終的に安定核種の鉛208 (208Pb)になります。
トリウム232 (232Th)から生成するラジウム228 (228Ra)は半減期が約6年と短く、一方、ウラン238 (238U)から生成するラジウム226 (226Ra)は半減期が1600年と長いので、これらの同位体の割合を見ることで、外洋海水なのか、沿岸海水(河川の影響を受けていた履歴が見れる)なのかを判別することが出来ます。例えば河川からはラジウム228 (228Ra)とラジウム226 (226Ra)の両方が沿岸へ流れ出ており、 228Ra/226Ra比が1を超えてきます。一方、外洋水にはラジウム228 (228Ra)がほとんど存在していないので、228Ra/226Ra比が非常に低くなります。
【アクチニウム系列の説明】
親核種であるウラン235 (235U)は、ウラン238 (238U)と同じく、海水に均一に存在しています。しかも、ウラン238と235の割合は現在一定で、9:0.7 位です。その濃度は 2ナノグラム/リットル で存在しています。これをベクレルで表すと、0.00016 ベクレル(Bq)/リットル になります。
ウラン238 (238U)との濃度差が1000倍近く違うことが特徴です。
これはウラン238と235の比放射能が違うからです。比放射能は1グラムに対するベクレル数で表せますが、これには半減期が絡んできます。半減期が長いほど比放射能は小さくなります。
ウラン235の比放射能(Bq/g)は80,000です。一方半減期が6倍程度長いウラン238は12,400です。その違いを質量で示すと濃度に違いが出てきます。
なお、ウラン235 (235U)は原子力発電所には欠かせない核種です。これはウラン235 (235U)は中性子が当たることで核分裂を起こしやすく、それによる熱エネルギーをたくさん得られるからです。ウラン238は中性子が当たるとプルトニウム239が出来てしまい、あまり熱エネルギーを得ることが出来ません。原子力発電所によってはウラン235を濃縮させて燃料として使うようにしています。
【ウラン235とウラン238の過去と未来】
上で述べたように、2つのウラン同位体の現在の存在割合は9:0.7程度ですが、地球誕生から同じ割合だったのでしょうか?
下の図は過去(20億年前)、現在、そして未来(20億年後)のウランの同位体比を示しています。
両同位体は半減期が異なるので、その割合は時系列的には変化していきます。現在ウラン235 (235U)はウラン全体の0.7%を占めていますが、過去は3.67%でした。更に20億年後は0.14%になると見積もられています。以前にお話ししたカーボン14 (14C)、常に宇宙線によって生成されていますが、ウランは地球誕生からほとんど作られていませんし、安定のウランは確認されていません。
【ウラン系列の不思議な動き】
下の図はウラン238 (238U)が崩壊することで生まれてくる、娘核種の説明です。
黒い矢印:海水から除去されやすい(ガスになったり、海底堆積物に沈着したり)ことを示しています
青い矢印:海水に溶けやすい性質の娘核種を示しています
大気や河川、海底堆積物から様々な娘核種が海水に入り込んだり、壊変して海水から取り除かれたりしています。例えば海水中のウラン238 (238U)がトリウム234 (234Th)になったら、粒子に吸着してに海水から取り除かれますが、トリウム234(234Th)は半減期が数十日なので、すぐウラン234(234U)になって水に溶け込みます。それがまたトリウム230(230Th)になり粒子に吸着して海水から除去されるのです。今度は、ラジウム226(226Ra)になると、また海水に溶けこみます。そして、ラドン222(222Rn)なるとガスになって大気へと移行します。
なにやら複雑な動きをしていますが、これらの性質を上手く利用することで、海水の物質循環や河川や大気の影響の度合い、そして水の年齢なども推定することが出来る優れものなのです。崩壊系列を上手く分析すれば海洋学にとっては時間と移動量を教えてくれる貴重な情報源なのです。