船観測をベースとした海洋学者たちは、船に乗って必死にデータを得ている。海洋学者って、船酔いするようじゃダメ? と思うだろう。たしかに、船酔いをしないほうが、観測が楽チンなのは当然である。しかし、「船酔いする」=「海洋学に向いていない」とか、「船酔いしない」=「海洋学に向いている」 は、あまり当てはまらない。海洋学で素晴らしい業績を挙げてきた大先輩たちには、船酔いが辛い、という方が結構多いように思うからだ。船酔いが辛くて、死ぬ思いで得たサンプルなので、大事に分析して、丁寧にデータ解析をするのだろう。なんとか我慢できるくらいの船酔いであれば、最終的に素晴らしい業績を残すのだと思う。 いっぽうで、観測船に乗り合わせた研究者が、皆、船酔いでヘバっていては、テンションが下がってしまう。荒波でもアホみたいに元気な研究者も必要なのである。私は、船酔いを一度も感じたことがない。船酔いの処方アドバイスは全くできないが、このような記事を書くのが私の役目だと思う。
いっぽう、東大大気海洋研究所の蒲生先生(現在、名誉教授)の著書「海洋の科学,蒲生俊敬(著)NHK BOOKS」では、船酔いをする人の立場から、船酔いについてコラムで語っている。 「結局、気に病むのが、一番いけないようだ。船酔いで死ぬ人はいない。~中略~ 全身全霊、命をかけて研究に打ち込む気概があれば、船酔いなどどこかへ吹っ飛ぶはずなのだが・・・。」 このコラムを読むと、恐れおののいてしまうが、それ以上に海洋研究に魅力があることを物語っている。
蒲生先生とは、なんどか白鳳丸航海をご一緒させてもらいました。航海リーダーの蒲生先生が、ほぼ全ての観測に参加(※)、アルカリ度とpHの測定も一手に引き受けていました。
※海洋観測は24時間体制で、観測場所になったら、時間シフト制で働きます。0-4, 4-8, 8-0の三交代制(一日4時間×2回)が多いです。任務時間外にも、個別研究の海水処理をやります。