これらの核種(137Csと131I)は、原発で核エネルギーを取り出す時にできた核分裂生成元素に由来します。これらは原子炉内で生成されやすい核種であり、人体に蓄積される性質があるので、人への影響についても一番関心の高い核種でもあります。
核燃料のウラン235が核分裂する際に生成される割合(核分裂収率)を下に示します。
131I:2.878%
137Cs :6.2%(他の核種からのベータ壊変由来も併せて)
核分裂の収率からすると137Csの方が多いように見えますが、131Iの放出された放射能(ベクレル数)が高いのは、半減期の違いによるものです。(ベクレルとは、1秒間に核分裂する原子の数です。半減期とは、核分裂により、元の数の半分まで減る時間です) 半減期が短いほどベクレル数は高くなります。原子炉で生成、蓄積される量で比べると、以下のようになります。
131Iの生成量:約50g
137Csの生成量:約7,000g
このように、生成、蓄積される量で比べると、半減期の長い 137Csの方が多くなります。また、原子力発電所の稼働年数が多いと半減期の長い137Csの割合が高くなります。
チェルノブイリ原発事故では、放射性ヨウ素131Iの放出量が突出して多いことがわかります。
これは原子炉の稼働年数の違いが要因です。原発は多量の核燃料を燃やす(核分裂を起こさせる)ことで、エネルギーを得るわけですが、核分裂の期間が長くなると、それだけ多くの放射性生成物が蓄積することになります。
131Iは半減期が8日ですので、生成されてもすぐに崩壊してしまい、稼働年数が長くてもほとんど蓄積しません。
一方、 137Csは半減期が30年なので、原子炉の稼働年数が長くなればなるほど蓄積されます。
すなわち、稼働年数が長いと原子炉内ではヨウ素に対するセシウムの割合がだんだん上がっていきます。チェルノブイリ原発では稼働年数が比較的短かったときに事故が起きました。そのため、原子炉内に蓄積していた137Csが少なく、事故により原子炉内の放射性核種が大気へ放出されたとき、137Csの放出量に比べて131Iの放出量が突出して多くなったと言えます。
もう一つの表をみてください。キセノン(Xe)133という放射性核種の放出も算入しています。実は、原発事故で放出される放射性核種では133Xeが最も多いのです。下の表で挙げた放射性核種について133Xeを加えた総放出量で比べると、チェルノブイリに比べて福島第一原発事故の方がずっと多いことがわかります。でも、133Xeの放出が大きく問題視されてきませんでした。何故でしょうか。
キセノン(Xe)は希ガスなので、生物の体や環境中のある場所に蓄積することが無いからです。人体に悪影響を及ぼすのは、放射性核種が人体に蓄積して体内で放射壊変することです(体内被曝)。また、環境中のある場所に蓄積して、その近くに人がいることで放射線に曝されることです(外部被ばく)。133Xeは、これらの影響が極めて小さいことが考えられるからです。
また、同じ核種でも原発事故で放出量が違うのは、チェルノブイリ原発事故は燃料毎吹き飛んでしまったのに対して、福島第一原発事故では、水蒸気爆発と核燃料と接触した冷却水に放射性核種が溶けだして、その汚染水の一部が地下や海に流れ出したものです。福島原発では、核燃料が吹き飛んだわけではないので、137Csや131Iの放出量がチェルノブイリに比べて少ないと考えられます。
出典:環境省HP(https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h28kisoshiryo/h28kiso-02-02-05.html)2020.8.12転載