ひととおり論文が完成したら,投稿する前に英語を母国語とする人に原稿を読んでもらい,英語表現のチェックを受けるのが一般的である。チェックを受ければそれだけ時間がかかり,投稿が遅くなってしまうが,英語表現が不十分で内容が理解できないようであれば,担当編集者や校閲者から,「意味がわからないので適切に修正するように」とか,「英文チェックを受けるよう強く勧める」とか,何らかの改訂を依頼されることになり,結局は修正に時間がかかる。ならばはじめからチェックを受け,原稿の完成度を高めて投稿すべきである。編集者や校閲者がなおしてくれるからいいや,などと思ってはいけない。
英文チェックは著者自身だけのためではない。私は論文の編集や校閲を長年にわたって経験してきたが,日本人を含め,英語圏ではない著者の論文で,英文チェックを受けておらず,文章に問題のあるものを担当することも少なくなかった。そして,そのたびに時間を取られ,苦労させられた。このように事前の英文チェックは,論文の完成度を高めるという意味では著者自身のためであるし,論文に関わる人の負担を少なくするという意味では編集者・校閲者のためでもある。論文投稿のエチケットだと考えよう。
英文チェックは同じ分野を研究している英語圏の研究者にお願いしたり,英文校閲を行う業者に依頼したり,さまざまである。研究者に読んでもらう場合は,自分では気づかなかった研究上の問題点を指摘してもらえることもあり,たいへんありがたい。
英文チェックで指摘された点を改訂し,体裁を整えれば,後は学術雑誌に論文を投稿するだけである。しかし,実際はここから先がいちばんたいへんかもしれない。多くの学術雑誌は査読制を導入しており,書いた内容がそのまま雑誌に掲載されるわけではないのである。通常は 2 名の校閲者が査読を行い,査読結果を参考にして担当編集委員が論文の掲載可否を判断する。
査読は基本的に担当編集委員がその分野の専門家に依頼する。論文は厳しい目で評価され,「掲載不可(Reject)」となることも珍しくない。査読制の学術雑誌では,校閲者の評価に耐え,掲載する価値があると判断された論文のみが読者の目に触れることになる。
校閲者の指摘がすべて正しいわけではないが,たいへん参考になるコメントをもらうことも多い。校閲者の指摘が妥当でない場合は,意見に従えない理由を担当編集委員に論理的に説明すればよい。
担当編集委員からも有益なコメントをいただく。これらの指摘点を踏まえて論文を改訂し,担当編集委員が問題ないと判断すれば,論文は受理され,ゲラのチェックなどを経て,後日,ウェブや冊子体として公表されることになる。それまでの苦労が報われる瞬間である。
しかし,新種を記載した論文も,あくまで科学的一仮説に過ぎない。投稿するまでに観察した標本から得られた結果であり,もっと多くの標本を観察すると,もしかしたら公表した新種と近似種の「種的差異」がなくなってしまい,新種ではなくなるかもしれない。公表されてほっとするのも束の間,そのあとは,良くも悪くも読者としての研究者の批評にさらされることになる。だからこそ,論文は投稿するまでにしっかりと準備し,公表後の批評にも耐えうるものにすべきなのである。