新種と思われる標本が 1 個体しかなく,それが特殊な方法で採集されていたり,滅多に調査が行われないような場所・水深で採集されていれば,追加の標本を得ることは難しい。その場合は,やむをえず 1 個体のデータで新種の論文を書くことになる。もしかしたら新種ではなく,既知種の奇形や種内変異かもしれないが,それでも論文として公表しなければこの情報は埋もれてしまう。新種発表した後で,誰かがそれを否定し,奇形あるいは種内変異と判断しても,そのような変異個体が存在することが新知見として理解されることになる。それも研究の進展なのである。また,新種であることが妥当であった場合は,公表によって誰かが注目することで,新たな標本が採集される可能性もある。