Topic outline
標本の観察―面倒だけどとても重要
まず,学術標本を観察して,形態データを収集する。観察項目は,大きく計測形質,計数形質,その他の形態形質に分けられる。
主な計測形質には,全長,標準体長,頭長,体高,吻長,上顎長,下顎長,眼径,眼窩径,各鰭の長さ,背鰭・臀鰭基底長,鰭条の長さなどがある。計測形質はノギスなどを使って測定する。目盛りを自分で読み取る従来のアナログ式のノギスでは読み誤りが起こる可能性があるが,測定値を自動で表示してくれるデジタル式だと誤りは起こりにくく,また読み取りも速いので,こちらがお勧めである。ただし,アルコールで濡れるとエラーを起こし,しばらく使い物にならなくなることもあるので,予備があったほうがよい。私は他の研究機関で標本を観察させてもらうときは,デジタル式の他に,予備としてアナログ式も持っていくようにしている。
図4.1 デジタルノギスによる測定風景。小数点第2位まで表示されているが,通常は四捨五入して小数点第1位までを測定値とする。計数形質には各鰭の鰭条数,側線鱗数,鰓耙(呼吸を行っている鰓弁を支える骨格要素の鰓弓の前縁にある骨質の突起物のこと。種・グループによって数に変異があり,分類形質となる場合がある)数,脊椎骨数などがある。脊椎骨数はレントゲン写真を撮影し,そこから数える。ヒラメ・カレイ類の場合は背鰭・臀鰭鰭条数もレントゲン写真を使うと非常に数えやすい。
他の観察部位としては上顎や下顎などにある歯(大きさ,形,数などが観察対象),頭部などにある棘(こちらも大きさ,形,数など),鱗(大きさ,形,鱗で覆われる範囲),色彩(アルコール液浸標本の色彩はもちろん,カラー写真が保存されていればそこから生鮮時の色彩も確認する)などがある。他にも分類群に特有な器官(ヒゲ,皮弁,突起物など)があればそれも観察対象となる。これらのデータをひとつずつデータシートに記入していく。
図4.2 コチ科魚類のレントゲン写真。魚類分類ではレントゲン写真を撮影する。フィルムを使わずにデジタル画像をコンピュータで読み込む装置も普及している。
図4.3 私が使っているコチ科魚類用のデータシートの一例(日本初記録のナメラオニゴチの標本のデータが記入されている)。魚体図を含め,模様などを図示することでデータ取りの時間短縮を図っている。必要に応じて写真も撮影するが,細かな特徴が写らないこともあるため,あくまで補助データとしている。時間短縮のため,「暗号」のような表現も使っている。