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ホッケ
ホッケは,北海道を代表する魚として,主に開きやすり身などの加工品として提供されており,重要な漁業資源のひとつである。ホッケの漁獲量について,1990年代には年間15万トン以上であったが,2000年代後半に入ると著しく低下し,近年は2万トン前後となっていた。ところが,2018年以降,漁獲は増加に転じている。本種のこのような資源変動のしくみについては未だ不明な点が多く,資源管理もままならない状態にある。
本種の生活史について,産卵は日本では主に北海道沿岸の岩礁帯(主に水深10~60 m)にオスがなわばりを形成して行われる。水温は15~17°Cではじまり,13°C前後で盛期をむかえ,8~9°Cで終了する。卵は沈性粘着卵(卵同士がくっついて卵塊になっている)で岩の隙間に埋め込まれており,雄がふ化するまで世話をする。雌は産卵期も積極的に摂餌を行い,1産卵期に複数回産卵を行う。ふ化仔魚は浮上し表層生活を送る。およそ半年は表層生活を送り,表層の水温が20°Cを超える頃には高温を避け底層へと生活の場を移す。寿命はおよそ10年とされており,およそ2年で繁殖に加わるが,ほんどの個体が2年目までに漁獲されてしまうため,繁殖は2才魚頼みとなっている。そのため,2年続けて加入(ふ化して漁獲されるまで成長する)が少ない年があれば資源量は急激に低下する。
本研究室では,産卵親魚の年齢構成,栄養状態,餌環境およびふ化仔魚の出現状況から資源の現状と今後を予測するための基礎的知見を収集したり,産卵場の形成状況,仔稚魚や幼魚の分散過程から,近年のホッケの産卵場や成育場としての利用状況と役割を明らかにしている。また,小学生を対象とした社会学習を行い,ホッケを例に持続的な水産資源の利用を推進するための人的資源の確保を目的とした活動を行っている。
スルメイカ
スルメイカは,亜熱帯から亜寒帯域の大陸棚と大陸棚斜面に沿って回遊する重要な漁獲対象種であり,寿命は約1年とされている。成長に伴って動物プランクトンから中小型の魚類(アジ,イワシ類)やイカ類(共食いを含む)を摂餌する。産卵は日本周辺の海で春・夏・秋・冬と1年を通して行われている。これまで,主な産卵期は秋(10~12月)から冬(1~3月)とされてきたが,地球規模の環境変化に伴い,再生産環境も大きく変化している可能性がある。本種の資源変動要因について,他の水産資源同様,生活史初期の生残の良否が影響していると考えられている。
本種の生活史初期に関する知見として,野外でふ化後間もない幼生は18.5 ºC以上の表層に分布することは知られているが,卵黄吸収後の栄養源(摂餌開始期の餌)に関する情報はない。また,本種の人工授精技術は確立されており,飼育環境下で卵発生およびふ化幼生の発育・行動の観察が行われている。しかし,卵黄吸収後,活発に摂餌を行い成長した例はない。本研究室では,ふ化幼生が成長するために必要な栄養源の探索を行っているところである。
キアンコウ
キアンコウは北海道以南の日本周辺に見られる魚で,特に太平洋北部海域では底建網,底刺網の重要な漁業対象種となっている。主要産地のひとつである青森県の漁獲量は,2009 年までは 900 トン前後で推移していたが,それ以降,減少傾向にあり,2017年は310 トンまで低下している。
本種は主に水深200 m以浅の大陸棚上に生息し,水温の変化や繁殖のため深浅移動を行う。年齢と成長については,魚類でよく用いられる耳石上に1年に1輪形成される年輪を用いた査定が困難であるため,長年研究が進んでいなかった。近年ようやく,背びれの棘に形成される輪紋が年齢形質として有効であることが分かってきたところである。産卵期は表層水温が13°Cになる頃,水深60 m以浅に移動して行われる。卵は凝集浮性卵に区分され,個々の卵は直径およそ1.3 mmで,卵帯(長さ3~5 m,幅40~50 cm)中に収められている。卵帯は表層付近を漂う。ふ化後の生態についてはまだ謎が多い。
本研究室では,キアンコウの資源量変動に大きく影響すると考えられる,仔稚魚期の生態(餌生物や成長速度)を明らかにしようとしているところである。また,野外で産卵された卵を水槽内でふ化させて飼育することによりこれまで不明であった本種の初期生態を解明する予定である。
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