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ウインクラー法(概要)
海洋学では、海水中の酸素濃度(Dissolved Oxygen: DO)を測定するのは基本中のキホンです。ウインクラー法でのDO測定を説明します。
【手順概要】
① 海水を酸素瓶に採取して、海水中の酸素を、水酸化マンガンの沈殿と結合させる。
② 溶存酸素が結合してできた、酸化水酸化マンガンを塩酸で溶かす。結合酸素量に応じて、試料水中でヨウ素を発生させる。
③ そのヨウ素量を、チオ硫酸ナトリウム溶液にて滴定する。ヨウ素量から、溶存酸素量に換算する。
ウインクラー法でのDO測定の手順と原理をもう少し詳しく説明します。
1)酸素瓶に海水を採取して、蓋をする前に、固定液Ⅰ液(塩化マンガンの酸性溶液)と固定液Ⅱ液(水酸化ナトリウムとヨウ化カリウムの強アルカリ混合溶液)を加えます。
2)酸素瓶の蓋をして、上下転倒30回します。
固定液Ⅰ液とⅡ液を入れて蓋をした直後が、下絵の左側です。酸性だった塩化マンガン溶液(Mn2+がある)は、Ⅱ液により強アルカリ性になると水酸化マンガン(Mn(OH)2)の白色沈殿になります。
この白色沈殿を生じた酸素瓶を上下転倒30回してよく混ぜると、海水中の溶存酸素(O2)が水酸化マンガン(Mn(OH)2)と結合して、褐色の酸化水酸化マンガン(MnO(OH)2)になります。白色と褐色の沈殿両方が混ざっている状態です。海水中に溶存酸素が多ければ、より濃い褐色を呈します(下絵の上)。酸素がほとんどなければ、沈殿は白色のままになります(下絵の下)。
この状態で、数時間静置すると、沈殿が瓶の底の方にたまってきます。
マンガンイオン(Mn2+)がアルカリ性下で白色の水酸化マンガンの沈殿が生ずる酸塩基反応、水酸化マンガンと酸素が結合して褐色の酸化水酸化マンガンが生ずる酸化還元反応を下に記します。
瓶の底の方に沈殿がたまったら(上絵の右側)、瓶の蓋を開けて、6 mol/L の濃い塩酸を入れます。
すると、酸素瓶にたまっていた水酸化マンガン(白色)や酸化水酸化マンガン(褐色)の沈殿は溶解して、マンガンイオン(Mn2+)が生じます。このとき、以下の酸塩基反応と酸化還元反応が起こります。
上の反応式: 水酸化マンガン(Mn(OH)2)のマンガンの酸化数は+2です。これが溶解してMn2+が生じても、マンガンの酸化数は+2のままです。酸化数が変化しない(電子の移動がない)ので、酸塩基反応です。
下の反応式: 酸化水酸化マンガン(MnO(OH)2)のマンガンの酸化数は+4です。これが溶解してMn2+が生じると、マンガンの酸化数は+2になります。酸化数+4から+2に変化する(電子の移動がある)ので、酸化還元反応です。
この酸化還元反応におけるマンガンに電子(e-)を供給する物質(もう一方の半反応)が必要です。それを、固定液(Ⅰ液)に予め入れておいたヨウ化物イオン(I-)が担います。ヨウ化物イオンは電子(e-)を放出して(酸化されて)、ヨウ素分子(I2)になります。
DO瓶に塩酸を入れて沈殿を溶解させると、溶存酸素量に応じて、ヨウ素分子(I2)が発生しています。
このヨウ素分子(I2)の量を濃度がわかっているチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定して調べます。
ヨウ素分子が溶液に存在すると(※)、その溶液は褐色~黄色を呈します。
ヨウ素分子にチオ硫酸を滴下すると、ヨウ素分子(I2)が還元されてI-に戻ります。色がなくなったところが終点(I2を消すのに必要なチオ硫酸の滴下が終わった点)です。
※ ここで注意したいのは、ヨウ素分子(I2)は難溶性の黒色の固体であることです。下の図のように、I2は周囲にI-があれば結合して三ヨウ化物イオン(I3-)として溶存するのです。滴定に供する褐色液体の”褐色の正体”は、三ヨウ化物イオン(I3-)なのです。I2と三ヨウ化物イオン(I3-)は平衡状態にあるから、三ヨウ化物イオン(I3-)の色がなくなると同時に、I2もなくなります。
なお、ウインクラー法を手分析でやるときは、褐色が薄くなったヨウ素液(試料水)にデンプンを入れて、ヨウ素デンプン反応により薄紫色をつけます。これの方が、色の濃淡が顕著にでるので、終点を判別しやすいのです。
電位差滴定により、試料水をチオ硫酸で滴定する自動装置もあります。以下に、電位差滴定の概要を示します。
電位差滴定では、チオ硫酸で滴定しながら、試料水中の酸化還元電位をモニターします。終点前(試料水にヨウ素分子があるとき)と終点後(チオ硫酸がたまるとき)では、酸化還元電位が違います。その終点は、電位曲線の変曲点となります。その変曲点を読み取って、終点に至るまでのチオ硫酸溶液の滴下量を読み取ります。
ウインクラー法の反応式など(まとめ)
以下に、学生実験で記したウインクラー法の説明文書を転載します。
ウインクラー法の原理(ウインクラー(L.M. Winkler)の方法)
一定量の試水に塩化マンガン水溶液および水酸化ナトリウム水溶液を加えて水酸化マンガンの沈殿を作る。
Mn2+ + 2OH‐ → Mn(OH)2↓ コロイド状白色沈殿 (1)
このとき、水中に溶けている酸素により水酸化マンガン(二価のMn)の一部が酸化されて三価のMn(OH)3になる。(酸化水酸化マンガンMnO(OH)2になるとして、反応式を作ってもよい。Mn(OH)3としたほうが、熱力学計算がやりやすいので、上式ではMn(OH)3を用いた)
2Mn(OH)2 + 1/2O2 + H2O → 2Mn(OH)3↓ 褐色沈殿 (2)
これにヨウ化カリウムと塩酸を加えると、酸化されていたマンガンイオンは酸性においてヨウ化カリウムによって還元され、ヨウ素を遊離する。
2Mn(OH)3 + 2I ̶ + 6H+ 2Mn2+ + I2 +6H2O (3)
この遊離したヨウ素を、濃度のわかっているチオ硫酸ナトリウムの水溶液で滴定すれば、間接的に酸素量が求められる。
I2 + 2S2O32 ̶ ̶ S ̶ + S4O62 ̶ (4)
結局、チオ硫酸ナトリウムの4分子(もしくはチオ硫酸イオン4モル)は、酸素(O2)の1分子(もしくはO2分子1モル)に相当する。
なお、Mn(OH)2とMn(OH)3 の混合沈殿物に塩酸を加えることになる。このとき、Mn(OH)2の沈殿も溶解してMn2+になる。Mn(OH)2のMn酸化数は+二価のままで変化しないので、酸化還元反応には関与しない(I2発生はない)。
これを実際に行うには、観測現場で採取した試水に①塩化マンガン水溶液(通称I液)と、②ヨウ化カリウム‐水酸化ナトリウム混液(通称II液)を順々に加える。溶存酸素をMn(OH)3として沈殿させておき(これを酸素の固定という)、後に塩酸で酸性にしてヨウ素を遊離させ、それをチオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定すればよい。
試薬調整
①と②は、教室全体で一つ使うので、教員・TAが予め調整しておく。各班(2 or 3名単位)で③~⑥を調整する。時間が余れば⑦も済ませておく。時間が足りなければ、⑤ or ⑥の試薬調整は3日目(次回)にやればよい。
① 塩化マンガン溶液(固定液の①液) (教室全体で一つ使うので、教員が用意する)
塩化マンガン(MnCl2・4H2O特級) 200 gをイオン交換水500 mLに溶かし、これに純濃塩酸2 mLを加えておく。
② ヨウ化カリウム‐水酸化ナトリウム混液(固定液の②液) (教室全体で一つ)
500 mLのイオン交換水に180 gの水酸化ナトリウムを溶かし、これに純粋なヨウ化カリウム※200 gを溶かす。プラスチック製の容器にたくわえる。この液は強アルカリのため、ガラス栓が固着してしまう。使用後の分注器もイオン交換水と酸で洗うとよい。
※ 古くなったり、強い光にさらされるとI2を遊離して呈色し、誤差の原因となるので開封後1年以内の新しい試薬を用いる。
③ 塩酸(6 mol/L)(200 mL)
純濃塩酸(12 mol/L)を2倍に薄めて作る。メスシリンダーで計量すればよい。
ビーカー(500 mL)に水100 mLを入れる。ドラフト内で、濃塩酸100 mLをメスシリンダーで計量する。ドラフト内で濃塩酸をビーカーに徐々に加える。ドラフト内で塩酸溶液を試薬瓶に入れる。調整直後は、試薬が暖かいので、蓋をしない。室温まで冷めたら、蓋をする。
注: 塩酸は蒸気を発する。濃塩酸を扱うときは、保護メガネをしたうえでドラフトチャンバー内で行う。水に濃塩酸を徐々に加えること。こぼれた塩酸は濡れティッシュで拭きとり、ティッシュは水道水で洗うこと。
④ デンプン溶液
デンプン約1 gを少量の水で練って均等なかゆ状にし、100 mLのお湯(イオン交換水)に入れる。さらに、透明になるまでゆっくり加熱しながら煮る。冷えてから試薬びんに入れる。(各実験班にて、バーナーでお湯を作る)
※ 長く貯蔵したいときは、100 mLのデンプン溶液に対して0.1 gの割合で安息香酸を入れるか、5 mLの割合で酢酸を入れておけば腐敗が防げる。あまり古くなったものや、びんの底によどみができたものは、ヨウ素に対する青色の発色が弱くなるから、新しいものと取り換える。長期間安定に使用するにはデンプンのグリセリン溶液がよい。グリセリンをあたためながら、10~20%の可溶性デンプンを溶かして調整する。
⑤ ヨウ素酸カリウム標準の原液(0.016669 mol/L)
1.7835 gのヨウ素酸カリウム(KIO3)をイオン交換水に溶かして全体を正確に500 mLにする。上下転倒を20回して、よく混ぜる。これを原液(実際に実験で使用する液の10倍濃度)として褐色瓶に入れ、なるべく冷暗所にたくわえる。使用に先立ち、1/10の濃度に希釈すること。
※ 電子天秤で量り取った正確な重量を記録しておけば、ヨウ素酸カリウムの標準溶液の正確な濃度が計算できる。したがって、3.567 g丁度に合わせる必要は無い。手際よく実験操作をすることを考えること。調整した濃度を保つため、試薬瓶などは共洗いする。
⑥ チオ硫酸ナトリウム水溶液(0.02 mol/L)
無水チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)約3.2 gをイオン交換水に溶かして全体を1 Lにする。上下転倒を20回して、よく混ぜる。試薬瓶に入れて保管する。
※ このチオ硫酸ナトリウム溶液を使って滴定するのだから、正確な濃度を知る必要がある。チオ硫酸ナトリウムは水和物を作るように、水を吸収しやすい。特級試薬の無水チオ硫酸ナトリウムを正確に量り取っても、正確な濃度の溶液を調整することはできない。そのため、正確な濃度を、ヨウ素酸カリウム標準液で標定する。標定方法は次章に説明。
⑦ 酸素瓶の容量検定(実験2日目に酸素瓶を洗い乾燥、3日目に乾燥重量を測定)
酸素瓶の容量を検定するため、酸素瓶に入る水の重量を測定する。まず、各班3本の酸素瓶を受け取り、水洗いをして、内部の水をよく切る。乾燥機に入れ、完全に乾燥したら、風袋重量を測定する。実験2日目にイオン交換水(200 mLくらい)をビーカーに入れラップをして一晩放置して、室温に馴染ませる。3日目に、イオン交換水の温度と室温を計測する。このイオン交換水を酸素瓶に満たして蓋をして外側の水滴をティッシュペーパーで拭き取る。水入りの酸素瓶の重量を測定して、水の重量を求め、容積に換算する。この容量検定は、海水の溶存酸素濃度の測定に入る前に済ませておく。
実験操作①~⑥を行う。時間が余れば追加実験もやる。
① チオ硫酸ナトリウム溶液の濃度標定
チオ硫酸ナトリウムの粉末試薬は水分を吸収しうるから、正確な濃度に調整することはできない。ヨウ素酸の標準溶液をチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定して、濃度を標定する。各自1回は標定する。各班3回やって平均値をとる。明らかに失敗したなら、やり直す。
(1) 約0.02 mol/Lのチオ硫酸ナトリウム水溶液をビューレットに入れる。チオ硫酸は腐食性があるので、目に入れないよう注意する。ビューレットは台から外して手に持ち、ビューレットの上にロートをのせて溶液をゆっくり注ぐ。注ぎ終わったら、ロートを取り外す。
(2)ヨウ素酸カリウム標準の原液(試薬瓶に保管中)を1/10の濃度に希釈する(ホールピペットとメスフラスコを使って正確にする)。希釈した液をホールピペットで10 mL正確に量り採り、コニカルビーカーに移す。これにヨウ化カリウムの小結晶0.2~0.3 gと、塩酸(6 mol /L) 1 mLを加えてヨウ素を遊離させる。すぐにイオン交換水を加えて全量を約100 mLとする。
(3)ヨウ素が遊離したコニカルビーカー内の液にチオ硫酸ナトリウムを滴下する。ヨウ素の黄色が薄くなったら、約1 mLのデンプン液を指示薬として加え、生じた青色が消えた最初の瞬間を終点とし、それまでに要したチオ硫酸ナトリウム水溶液の容量から正確な濃度を決定する。チオ硫酸ナトリウム水溶液の濃度を求め、目的濃度の0.02 mol/Lに比べて大きくずれているようなら、実験操作に重大なミスがあったと思われる。
(頻発するミスとして、調整した試薬の混合不足がある)
反応式の説明
ヨウ化物イオン(I-)は塩酸酸性下で酸化されてI2になる。このときヨウ素酸(IO3-)は還元されてI2になる。
IO3- + 5I- + 6H+ + 6H2O + 3I2 (1)
ヨウ化カリウムの結晶は過剰に投入されているから、コニカルビーカー内の全てのIO3-はI2になっている。I2とI-が結合して、I3-になる。
I2(aq) + I- ⇆I3- (2)
このI3-が黄色を呈するのである。
このI2をチオ硫酸で還元する。
I2 (aq) + 2S2O32 ̶ ̶ ) ̶ + S4O62 ̶ (3)
I2がなくなると、同時にI3-もなくなる。色がなくなった所を終点とする。
なお、I2 は黒色の固体であるが、わずかに溶解してI2 (aq)になる。
I2 (s) ⇆ I2 (aq) (4)
追加実験(時間が余ったら)
実験操作(2)にて、ヨウ素酸標準の原液10 mLをコニカルビーカーに入れる(当初実験の10倍量のヨウ素酸が添加する)。これにヨウ化カリウムの小結晶を0.2~0.3 gだけ加えて、塩酸1 mL、イオン交換水を加えて約50 mLとする。すると、コニカルビーカー内のIO3-が、添加したI-を全て反応し尽してしまう。つまり、コニカルビーカー内にはI-が存在しないから、化学反応式(2)の平衡が左に移動してI2 (aq)が発生する。I2 は元々ほとんど溶解しないので、反応式(4)によりI2(s)が析出する。これを確認してみよう。この黒色固体を溶解させるにはどうしたらよいか。ヨウ化カリウムを追加すればよい。