金属元素の多くは、難溶性の酸化物(例えば、Fe2O3)や水酸化物(Fe(OH)3)をつくります。また、金、銀、銅、鉛などは塩化物(Cl-)と結合して難溶性の塩化物粒子を形成します。水中でこれらの物質ができるのは、金属イオンが過飽和にあるときです。これはpHに依存して、pHが高い方が粒子ができやすいです。過飽和な状態が保たれると、これらの難溶性物質が集合して超微粒子の核を形成します。核が多量にあれば、それらが凝集してコロイド粒子になります。
水中で微粒子が分散している状態(コロイド)を保つには、個々の粒子表面が同じ符号の電荷(プラス
or マイナス)で帯電していることが必要です。そうすれば、粒子同士が静電力で反発し合い、凝集することはありません。微粒子表面が帯電する機構はいくつかあるので、二つ紹介します(コロイド科学,Cosgrove編,東京化学同人を参考にしています)。
(a) 表面基のイオン化 -金属酸化物や金属水酸化物のケース-
官能基をもつ粒子は、表面に露出しているその官能基がイオン化することにより帯電します。例えば、水酸化物の粒子表面のOHはpHが低いと水中のH+を引き寄せて正に帯電します。pHが高いと、自らH+を放出して負に帯電します。
水に塩化鉄(FeCl3)や硫酸鉄(FeSO4)を入れて、少量のアルカリ性物質(アンモニアや水酸化ナトリウム)を入れると、オキシ水酸化鉄(FeO(OH))ができます。酸化物や水酸化物の粒子表面のOHは水中のH+を引き寄せて正電荷を帯びる。個々の粒子表面が正の電荷を帯びるので、粒子同士は反発し合います。その結果、これらの微粒子同士が凝集することは無く、コロイドの状態を保ちます。
(b) イオン性固体の解離
イオン性の固体(金、銀、銅、鉛の塩化物、ヨウ化物など)は、水中の共通イオンを粒子表面に引き寄せて、帯電します。例えば、
NaCl溶液に少量の
AgNO3溶液を加えると、難溶性の
AgCl微粒子ができる。この溶液中に存在するイオ
ンは、Na+,
Cl-,
NO3-です。この中でAgClとの共通イオンはCl-なので、AgCl粒子表面に引き寄せられるのはCl-イオンとなり、粒子表面は負に帯電します。これを一次荷電層といいます。さらに、一次荷電層の電荷に別符号のイオン(この場合、Na+)がゆるく引き寄せられます。これを電気二重層といいます。粒子同士は同じ符号で帯電しているので反発し合い、凝集成長をふせぎます。
もちろん、水中に共通イオンがなくなれば、帯電することはないので、凝集が進んで沈殿します。