トピックアウトライン
内部エネルギーの概要
再び、温度一定条件における体積の膨張・収縮を例にだします。
今度は、体積が変化したときのエントロピー変化と内部エネルギー変化について考えます。
内部エネルギーとは、「系を構成する分子の運動エネルギーの総和」と定義され、
内部エネルギーは「温度に比例する」
(内部エネルギーについては、あとで少し補足します)
下の絵のように、温度一定のまま、気体を膨張させたり、収縮させたりする。温度一定なのだから、膨張や収縮の前後で内部エネルギーは変わりません。先のコースで説明したように、温度一定で体積が10倍に増えれば、エントロピーは19.3 (J/K)だけ増えます。逆に、外部から仕事を与え、体積を収縮させて、温度一定に保てば、内部エネルギーは同じなのに、収縮前に比べてエントロピーは19.3 (J/K)だけ減ります。
つまり、集合状態を調整するのに要するエネルギーを加えてやれば、エントロピーを減らすことができます。内部エネルギーは温度T0に比例するだけなので※、系がもつ内部エネルギーは膨張・収縮前後で変わりません。
収縮前の高エントロピーの方は、外界に仕事して取り出せない“束縛エネルギー”が大きいのです。
※ 内部エネルギーの正体については、あとのコースで説明します。
内部エネルギーとエントロピーの関係
そこで、
内部エネルギー(U)には、
【外界に仕事として取り出せない束縛エネルギー】
と
【仕事として取り出し得る自由エネルギー】
が内在すると考えます。
したがって、内部エネルギーの変化⊿Uは、
【内部エネルギーの変化:⊿U】
=【ある温度のときのエントロピー変化:T⊿S】
+【自由エネルギー変化:⊿F】
と表されます。
この、内部エネルギーに内在する自由エネルギーをヘルムホルツの自由エネルギー(F)と定義します。したがって、以下の式が成り立ちます。
⊿U = T⊿S + ⊿F
高校か大学一年で物理をかじっていれば、“内部エネルギー”というワードは聞いたことがあるでしょう。しかし、内部エネルギーの定義までシッカリ説明されてなかったか、忘れているかもしれません。ここでは内部エネルギーの定義と概念だけを説明します。
「内部エネルギーは、系を構成する分子の運動エネルギーの総和である」
質量mの分子が速度vで移動していれば、その分子一個の運動エネルギーは1/2・mv2です。ある体積の箱の中に分子n個が閉じ込められていれば、運動エネルギーの総和は1/2・nmv2です。速度vで移動する分子たちは壁に衝突して力積(2mv)を与えます。単位時間・面積当たりの力積が圧力(P)に等しい。運動エネルギーの総和(U=1/2・nmv2)をPVで表したのち、気体の状態方程式(PV=nRT)よりRTに変換すると、「内部エネルギーは温度に比例する」という面白い結果が得られます。これを式にすると以下。
U = 1/2Σmv2 = ・・・ = 3/2RT
「・・・」の計算は、それほど難しくないが、説明を省きます。(金原寿郎著・基礎物理学(上)など物理学の教科書に記されています)
ただ、「内部エネルギーが運動エネルギーの総和で、温度に比例する」と信じてくれれば、内部エネルギーには仕事して取り出せない束縛エネルギーが内在することをイメージしやすいです。
内部エネルギーに束縛エネルギーが内在することをイメージするための説明
1リットル(1dm3)の牛乳パック空間に分子が1023個(1億×1億×1千万個)もあって、各分子が四方八方に10km/sの猛スピードで運動していれば、分子同士が衝突して化学反応を起こし、何か仕事をしてくれそうです。1万キロ立方メートルのお月さまサイズの箱に分子が1023個しかなく、各分子が四方八方に10km/sで運動している系と比べてみます。お月さまサイズの空間に分子が1023個ある密度は、皆さんが住んでいる牢獄のようなアパートの一室(10立方メートル)に分子が10個しか飛んでいない密度に相当します。分子サイズは0.1nm(ナノメートル)くらいなので、これほどスカスカでは、分子がいくら高速で動いていようと、分子同士が衝突して化学反応を起こすことは期待できません。牛乳パックとお月様サイズの空間に存在する分子の総運動エネルギー(内部エネルギー)は同じなのに、後者の内部エネルギーからは、化学変化の仕事を取り出すのが難しいです。つまり後者の内部エネルギーには、仕事として取り出せない“束縛エネルギー”の占める割合が多そうですね。(以上で内部エネルギーの補足説明はおわり)