Topic outline
電気化学(はじめに)
酸化還元反応とは、物質間で電子の授受がある化学反応のことです。生物が呼吸するとき、有機物を分解して得られるエネルギーを転送するときには、必ず電子の移動を伴います。生物代謝を考えるには酸化還元反応が大事なので、その基礎を学びます。
ところで、電子が移動するときには、必ず、電子の移動元と移動先に電位差が生じています。酸化還元反応にて物質間で電子が移動するときだって、物質間に電位差が生じます。この酸化還元電位が物質の化学形態(酸化⇆還元)を決定づけます。電子が移動する量(電流)から反応量を知ることもできます。反応にともなう電流や電圧の変化を精密に測定すれば、化学変化の様子を刻々と追うことができるのです。このように、電気と化学を関連づけると良いことが沢山あるので、“電気化学”なる学問分野が生まれました。
硫酸呼吸における電子の流れを描きました(下図)。各半反応は固有の標準電極電位をもつので、反応系の電位を計測すれば、反応物質を特定できるでしょう。電子の移動量(電流)を計測すれば、反応量が求められるでしょう。このように、反応系の電位を計測したり(電位を調整したり)、電流を計測することで、酸化還元反応に関与する物質量が求められるのです(ボルタンメトリー法)。
電気化学の基本式(ネルンストの式)
ネルンストの式
電気化学で最も大事なネルンストの式を覚えてもらいます。
物質A, Bがモル比a,bで反応して、物質X, Yがモル比x, yで生成される半反応において、電子の移動量はn・e-である。物質Aの濃度は【A】などと表されます。
半反応式: a・A + b・B + n・e- = x・X + y・Y
半反応に生ずる電位(E)
E = E0 - RT/(nF)・Ln{([X]x・[Y]y) / ([A]a・[B]b)}
E0 は標準電極電位、Rは気体定数、Tは温度、Fはファラデー定数
Eのことを、酸化還元電位といいます。なお、
([X]x・[Y]y) / ([A]a・[B]b) = 1のとき、E = E0である。
先に、求めた標準電極電位は、ネルンストの式の特殊解でだったのです。
一般的な反応系では、([X]x・[Y]y) / ([A]a・[B]b) = 1とは限らず、任意の濃度比をとるでしょう。そんなときの酸化還元電位を求めるための式なのです。次のコースでは、ネルンストの式を使った例題を解きます。